
(写真中央下:弊社CIO清水裕、TDK社内イベントにて)
創業から90年近く、TDKは時代の変化に応じて主力事業を大胆に転換しながら、常に新たな価値を生み出してきました。フェライトから始まり、磁気テープ、HDD用磁気ヘッド、そして現在の二次電池へ──その歩みの根底には、挑戦を恐れず技術の本質を問い直す「否定技術」や、役職や立場を超えて議論を交わす「機能対等」など、同社の強みを裏付ける独自の企業文化があります。本稿では、カディラが同社と重ねてきた対話を通じて見えてきた、TDKの価値創造の原動力と、その未来への展望を紹介します。
TDKは1935年、創業者の齋藤憲三氏が、東京工業大学の加藤与五郎博士・武井武博士によるフェライト(磁性材料)の発明を工業化することを目的に設立した企業です(1983年に現在の社名へ変更)。創業当初は、ラジオのノイズ除去用途に用いられるフェライトコアを製造し、その後はコンデンサなどの電子部品へと事業領域を拡大しました。
1970~80年代には、磁気技術を応用したカセットテープやビデオテープが主力事業となりました。しかし、デジタル化の進展に伴い磁気テープの需要が減少すると、事業の軸をハードディスクドライブ(HDD)の磁気ヘッドへと転換。磁気テープ市場の縮小を補い、新たな成長を実現しました。
さらに2010年代には、NANDフラッシュなど半導体記憶メディアの容量拡大によりHDD需要が停滞しましたが、スマートフォン向けの小型二次電池事業を伸ばすことで成長を維持しました。こうして、カセットテープ、HDD用磁気ヘッド、スマートフォン用二次電池と、時代の変化に応じて主力事業をダイナミックに転換しながら成長を続けてきたことが、TDKの大きな特徴です。
小型二次電池事業を担うのは、香港に本社を置くATL社です。ATLは1999年に、かつてTDKグループで勤務していたロビン・ゼン氏が設立し、2005年にTDKが買収しました。その後、ATLはグループ傘下で小型電池事業を拡大し、TDKのエネルギー分野強化に大きく貢献しました。一方、2011年にはATLのEV向け電池部門が独立してCATLが誕生し、世界最大の車載電池メーカーへと成長しています。現在、TDKおよびATLとCATLの間に資本関係はなく、ロビン・ゼン氏もATLの経営に関与していませんが、両社は2021年以降、クロスライセンスや合弁事業を通じて、電動二輪車や蓄電システム向けの中型電池分野で協力を進めています。
TDKが時代の変化に合わせて大胆に主力事業を転換してこられた背景には、技術力と企業文化があります。創業者の齋藤憲三氏は、TDK設立以前に養豚や毛織物など多様な事業を立ち上げては撤退する経験を重ねました。こうした挑戦と試行錯誤を経て培われた起業家精神は、同社の根幹を成す価値観の一つと言えます。さらに、フェライトの特許を生み出した加藤与五郎博士・武井武博士を起点とする卓越した技術開発力も、今日まで続く同社の大きな強みとなっています。
現在のTDKは、フラットでオープンな企業風土を重視しています。その象徴が「機能対等」という社内用語です。これは上下関係ではなく役割に基づいて対等に意見を交わすことを意味し、自由闊達な議論を促す同社の価値観を表しています。また、技術開発の姿勢を示す言葉として「否定技術」があります。既存の技術を前提とせずにあえて見直すことで、差別化や長期的な技術革新につなげる考え方です。かつて主力だった磁気テープに代わってハードディスクを新たな事業機会ととらえられたのも、この発想があったからだと言えるでしょう。
TDKは、将来の主力事業としてAIエコシステムを支える先端テクノロジーの開発に注力しています。その一例が、磁気技術を応用したアナログメモリ素子で、AIデバイスの消費電力を最大で100分の1に抑えることが可能とされています。こうした技術は同社の主力製品である二次電池の需要を減少させるリスクも伴います。しかし、あえて既存事業への影響を恐れず、今後社会に不可欠となる技術開発を進める姿勢は、同社が持つ挑戦的で開かれた企業文化を体現していると言えるでしょう。
TDKは現在、バッテリーを中心としたエナジー応用製品セグメントを主力としており、同セグメントは2025年3月期決算において、全社売上の53%と過半を占めています。グローバルシェアは主にスマートフォン向けに使われる小型二次電池では50~60%、産業機器向け電源では10~15%と、それぞれトップのポジションとなっています。
主力とするスマートフォン分野では、今後エッジAIの普及によってこれまで以上に大容量で高効率なバッテリーが必要となる可能性があります。実際、携帯電話向け電池市場は年率6%超の成長が予測されており(1)安定した需要拡大が続く見通しです。一方、中型電池の分野では、電動二輪車向けが年率11%超(2)、データセンター向けが13%弱(3)と二桁成長が期待される需要分野が複数存在します。
こうした多様な需要の広がりは、二次電池が次世代社会の基盤技術としてますます不可欠な存在になっていることを示していると言えます。電気の使用量が増加するにつれて、エネルギーの分散化や需給調整など、二次電池が担う役割が高まっています。TDKはその中で、大容量で高品質な二次電池の製造を行うことで、社会の安定化に貢献しています。
カディラは2025年に入ってから、TDKとの対話を積極的に進めています。TDK自身も近年、IR部門やサステナビリティ部門を中心にステークホルダーとの対話機能を強化しており、その活動は目に見える形で活発化しています。2022年に齋藤昇社長(創業者・齋藤憲三氏とは血縁関係なし)が就任して以降、体制整備が一段と加速したことも背景にあります。
その流れの中で、2025年3月にカディラCIOの清水が国際会議でプレゼンテーションを行った際、TDK側からその内容を基に追加の対話機会を持ちたいとの提案がありました。TDKが特に関心を示したのは、カディラの「インパクト統合価値(IIV)」の考え方です。TDKは、人的資本や知的資本などの未財務資本が事業成長につながることを示し、それをステークホルダー評価に結び付ける開示のあり方を模索しています。カディラの手法は、こうした課題に取り組む同社に具体的なアイデアを提供するものとなりました。
複数回のミーティングを重ねた後、カディラは7月にTDK株への投資を実行しました。さらに9月には、事業部門も交えたミーティングに清水が参加し、直接意見交換を行う機会を得ました。一般的に事業会社が投資家に社内の実情を積極的に開示することは多くありません。そのため今回の提案は、ポジティブな驚きとともに、TDKが自社の企業風土や透明性に強い自信を持っていることの表れだと受け止めています。実際に社内の議論に加わるなかで、フラットでオープンな議論を通じて社員が新たな気づきを得ていく姿を目の当たりにし、同社の強みを裏付ける文化を実感することができました。
カディラは、TDKが社会インフラとして不可欠な二次電池事業をさらに発展させ、加えてAIエコシステムの構築にも貢献していくことを強く期待しています。今後も建設的な対話を継続し、長期的な価値創造に向けて伴走していく方針です。
*1 https://www.datamintelligence.com/research-report/cell-phone-battery-market
*2 https://www.wiseguyreports.com/reports/motorcycle-lithium-battery-market
*3 https://www.precedenceresearch.com/data-center-lithium-ion-battery-market
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