
2026年8月、「統合報告カンファレンス2026」にカディラCIOの清水裕が登壇しました。本イベントは統合報告書作成の支援会社であるエッジ・インターナショナル、ブレーンセンター、リンクソシュールの3社の共催で開かれました。清水は「統合報告におけるマテリアリティ」というセッションにおいて、ブレーンセンター代表取締役社長の平石隆生氏と対談し、投資家の立場から統合報告書のあり方についてお話ししました。
統合報告書は法定の開示書類ではなく、企業の任意による開示です。それにもかかわらず、日本での普及は着実に進んでいます。宝印刷D&IR研究所の調査(*1)によれば、日本における統合報告書の発行企業数はIIRC(国際統合報告評議会)によるフレームワークの日本語版が公表された2014年の142社から、2025年には1214社へと8倍以上に増加し、上場企業の約3割が発行する状況となりました。加えて、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示拡充、コーポレートガバナンス・コードの改訂議論、AIの本格活用といった変化が重なり、企業が発信する情報には従来以上に質と一貫性が求められています。そのような状況下、本カンファレンスは「これからの統合報告」をテーマに議論する場として開催されました。
カディラでは「インベストメントチェーンを先へとつなぐ」というミッションステートメントを掲げ、企業との対話を投資プロセスの中核に置いています。運用者が開示情報をどう読み、どのように企業価値評価に用いているのかを開示担当者に直接伝えることは、開示の質を高め、ひいては私たち自身の投資判断の精度を高めることにつながると考えています。本カンファレンスでは、ご参加いただいた上場企業の開示担当者に向けて、以下の三つのメッセージをお伝えしました。
AIの活用により各社の開示水準が底上げされ、各社の記述が同質化する可能性があります。また、有価証券報告書におけるサステナビリティ情報の開示義務化により、各社が正確性を重視するようになれば、独自性のある表現を躊躇してしまうかもしれません。そこで、企業の開示担当者が注力して取り組むべきは、人手をかけた差別化になります。特に経営トップのメッセージは会社全体の方針や、経営者自身の思考を表現する重要なコンテンツです。経営者の人間性や、自社の課題と強みの微妙なニュアンスを伝える工夫が期待されます。たとえば動画インタビューを並行して展開することも有効です。
サステナビリティ開示の義務化は、企業に対して投資家の判断に資する情報の開示を求めるものです。よって、その情報を投資家が実際の投資判断に用いてはじめて、制度の目的は達成されます。カディラは、独自のインパクト統合価値(IIV)モデルを通じて、その情報を長期の業績見通しに反映しています。一般的に、企業活動をプラス評価する際に、DCFモデルの永久成長率を引き上げるという調整を行う投資家が多いと思われますが、50年後、100年後を見通すと、わずかな引き上げでも想定される業績規模は加速度的に膨らみます。すでに地球環境は、気候変動や天然資源の枯渇といった問題を抱えています。この地球環境の制約という前提がある中、仮にサステナビリティに優れた活動が際限のない拡大につながるという結論を導くと、前提と結論に矛盾が生じます。そこで、カディラのIIVモデルでは将来のどこかの時点で成長が緩やかに収束し、持続的な均衡状態に至るというシナリオを描いています。そして、自然資本、人的資本、サプライヤーなどに適切に配慮している企業については、均衡点に達するまでの「成長期間が延長される」という形で評価に反映しています。森を守れば経済発展が長く続く、という捉え方のほうが、自然資源の保護に努めながら事業を営んでいる現場感覚にも合うはずです。
東京証券取引所が公表した上場企業向けアンケートでは、対話が有意義な投資家としてアクティブ運用(ロングオンリー)がパッシブ運用、ヘッジファンド、アクティビストを大きく上回る評価を得ました。アクティブ運用は上場企業にとって有意義な存在ですが、資金流入は低調です。運用会社に資金を受託するアセットオーナーにとっては、パッシブ運用はフィー、ヘッジファンドはパフォーマンス、アクティビストはキャンペーンといった、外部から評価しやすい訴求点を持っており、それに比べるとアクティブ運用は外部から評価しづらい、という事情があるのでしょう。今回のアンケート結果は、「エンゲージメントの質」という新たな評価軸を提示するものだと受け止めています。同調査では、有意義と評価された投資家が実名で掲載されており、カディラも3社以上の企業から名前が挙がった運用会社として記載されています。企業にとって有意義な対話を行う投資家に資金が向かうようになれば、インベストメントチェーンはより発展的なものになると考えています。
本カンファレンスには、IRやサステナビリティなど、情報開示に関わる上場企業の担当者が多く参加しており、カディラとしてのメッセージを伝えるには非常に有効な機会でした。終了後には多くのフィードバックをいただき、なかでも「成長期間の延伸」というコンセプトに強い関心を寄せていただきました。今後もこの発信を続け、サステナビリティ対応と企業価値創出の両立を企業に促してまいります。
*1 「統合報告書発行状況調査2025」最終報告
https://www.dirri.co.jp/res/report/uploads/2026/02/fa9dedbc63986136d2a8102806f3506db58982ae.pdf
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