
カディラキャピタルマネジメントの2023年11月の活動として、投資対象企業との対話内容を報告します。
私たちは、エンゲージメント活動を具体的に開示することで、ステークホルダーとの信頼関係を深め、「インベストメントチェーンを先へとつなぐ」というミッションの遂行を目指しています。
堀場製作所は創業70周年を迎える計測器メーカーです。自動車排ガス計測器で成長した後に半導体分野に事業展開することで更なる成長を遂げ、現在は利益の多くを半導体分野が稼ぐ事業構造となっています。また、新規分野として水素分野を強化しています。水素関連事業はまた全社売上の2%超を占めるに過ぎませんが、欧州での需要増加を受けて売上が倍増ペースで成長しており生産能力増強で更なる成長が見込まれます。
堀場製作所は計測器を主力事業としてきた性質上、自ずと社会の課題に向き合ってきました。例えば、排ガスや血液の状態を計測する装置は環境や健康の維持に寄与します。しかし、事業活動の質が高いと思える一方、それを社外に発信することについて、同社は今まであまり積極的ではありませんでした。カディラのチーフインベストメントオフィサーは、1年半ほど前に行った足立社長とのミーティングにおいて、堀場製作所の情報発信力の改善余地の大きさを踏まえて、IR部門の人員拡充とサステナビリティについての発信強化を提案しました。
最近カディラが行った堀場製作所とのミーティングにおいては、同社が2024年初旬に発表する予定の次期中期計画の策定に向けて、サステナビリティ対応の強化についての議論を進めていることや、IR部門とサステナビリティ部門の人員拡充など、社外のステークホルダーとのコミュニケーション強化策が進められていることが確認できました。投資家の意見をきちんと受けとめて、実行に移している点はポジティブに評価できます。
また、このミーティングにおいてカディラからはサステナビリティ対応の追加策として同社が生み出しているインパクトについてのKPI開示を強化することを要請しました。例えば、同社が開発製造している計測器は、大気や水質の維持や、社会の技術革新につながる研究開発を促進するための役割を果たしていますが、そのようなインパクトは定量的に開示されていません。社内で自社の生み出しているインパクトを計測し、事業の社会的意義を明示することができれば、同社の対外的な評価が高まることにつながります。特に人材採用面において、企業文化にフィットする人を惹きつけるための重要な役割を果たすでしょう。研究開発型である堀場製作所においては人材の質は生命線であることから、長期的な経済価値創出を考える上でも、わかりやすいインパクト開示が重要になってきます。
なお、カディラは堀場製作所と資本効率の改善に向けた投資や株主還元の強化など、財務面についても意見交換を行いました。堀場製作所は大きな設備投資を必要としないことからキャッシュ創出力が高いという優れた事業構造を持っていますが、逆に生み出したキャッシュを有効に活用しなければ、資本効率が低下してしまうリスクがあります。そのような状況を踏まえ、財務面においても投資家の意見に積極的に耳を傾ける姿勢が以前よりも鮮明になってきた点はポジティブに評価できます。
全体を通じて、堀場製作所のIR担当者は我々の意見に対して納得感をもって受け止めた様子であり、今後の対応が期待されます。
プレステージ・インターナショナル(以下、プレステージ)は、ビジネス・プロセス・アウトソーシング(BPO)を主力事業とする企業です。売上高は565億円、営業利益は82億円、純利益は55億円となっており、いずれも2024年3月期の会社計画に基づいています。
同社は、BPOの中でもニッチな分野にフォーカスする方針を掲げています。例えば、売上および利益の双方で約40%を占める主力サービスは、オートモーティブ事業であり、車の事故や故障時の対応業務を担っています。電話受付に加えてレッカー車の出動も業務範囲としているため、単なるコールセンター業務とは異なり、参入障壁が高い事業となっています。
出動件数のうち10~15%を占める事故対応については、車の衝突回避性能の向上により需要が減少する可能性がある一方で、電動化の進展に伴い、電欠や故障などのトラブルは増加傾向にあります。同社では、自社で保有する約60台のレッカー車すべてに充電機能を付けるなど、トラブル対応力の強化を進めています。
同社は、「エンドユーザーの困ったことに耳を傾ける」という理念を経営の中心に据えていますが、変化する状況に機敏に対応する姿勢からは、その理念が実際の行動に反映されている様子がうかがえます。このような経営理念は、競合であるJAF(日本自動車連盟:非営利組織)との差別化要因になっていると考えられます。
また、プレステージの特徴の一つとして、BPOセンターを東北・北陸エリアに集中して展開している点が挙げられます。ロードサービスの出動要請は台風時に増加するため、台風被害が比較的少ない地域を選んで拠点を展開していることが、その理由です。さらに、これらの地域は産業発展の遅れから人口減少が進んでいることもあり、同社は働きやすい環境を整備することで、地域の発展に貢献する意思を明確に示しています。
人口流出を抑えるためには、雇用創出だけでなく地域の一体感を高める施策が必要であるとの考えから、スポーツチームを一から立ち上げる取り組みも行っています。近年では、チームの試合が多くの観客を集めるようになり、地元行政からも高い期待が寄せられています。
カディラは、同社との対話において、これらの活動をKPIとして明示することを提案しました。また、同社は長期目線の投資家と財務戦略について議論したいという意向を持っているため、今後も継続的に対話を進める方向で協議を行っています。
ベネッセホールディングスは、小中高校生向け通信教育講座「進研ゼミ」などを展開する通信教育最大手の持株会社です。国内教育事業が収益の柱となっていますが、乳幼児向け教材を中国など海外にも展開しています。また、有料老人ホームなどの介護施設事業も全体売上の約3分の1を占めています。
同社は11月10日、創業家がスウェーデンのプライベート・エクイティファンドであるEQTグループと組み、同社に対する公開買付け(TOB)を行うと発表しました。取締役会もこの公開買付けに賛同し、株主に対して応募を推奨することを表明しています。公開買付けは直近終値比で45%のプレミアムを付けて実施される見込みであり、同社は上場廃止となる見通しです。
この発表を受けて、当社では内容を精査するとともに、公開買付け価格の妥当性について検討を行いました。その結果、公開買付けに賛同し、保有するすべての株式を売却する意思決定を行いました。
当社は同社の企業理念に共感し、2013年からエンゲージメントを行ってきました。特に、グループ内リソースの活用などによるシナジー創出を通じた企業価値向上について、同社の上場子会社である東京個別指導学院も含めて議論を重ねてきました。直近では、本年9月にNPOなど多様なバックグラウンドを持つ社外取締役の選任を検討することを提案するとともに、創業家取締役のリーダーシップに対する期待を伝えていました。
同社のMBO発表に伴う株価の急上昇により、当月のポートフォリオにおいてはパフォーマンスへの最大の貢献銘柄となりました。一方で、少数株主としてエンゲージメントを継続することや、企業価値向上に伴走できなくなる点については残念に感じています。しかしながら、これまで同社が実行・検討してきた事業変革を超える抜本的な改革を進めるために、非上場化を選択した同社の意思決定を尊重し、今後の構造改革の進展に期待しています。
特に11月以降、ベネッセに限らず、大正製薬やシダックスなど、MBOを発表する企業が増加しています。背景には、東証の市場改革による資本コストや株価を意識した経営への要請、株主との対話推進や開示強化に伴う上場コストの増加に加え、アクティビスト活動の活発化やPEファンドの運用資産増加などがあると考えています。
また、当社が企業との対話や情報収集を行う中で、各社が上場の意義を改めて問い直す動きが広がっていると感じています。その結果、非上場化が最適であると判断する上場企業は今後も増加すると考えられますが、TOB価格の妥当性や少数株主との利益相反といった点については、引き続き注意が必要であると認識しています。
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