2024/10/25

活動報告(2024年9月)

カディラキャピタルマネジメントは「インベストメントチェーンを先へとつなぐ」というミッションを掲げて活動しています。ミッション遂行のためには社内外のステークホルダーとの協力関係が欠かせません。私たちは投資対象企業との対話など、活動内容を具体的に開示することで、ステークホルダーとの信頼関係を深めていくことを目指しています。

今月は以下の活動について報告します。

東京海上ホールディングスとの対話

企業概要

東京海上ホールディングスは損害保険を主力とする企業グループです。同社は1897年に日本初の海上保険会社として設立され、1914年に日本初の自動車保険を発売するなど、日本の保険市場を牽引してきました。長らく日本国内を中心に事業を展開していましたが、2000年初頭から本格的に海外展開を開始し、直近の経常利益の54%は海外からの収益となっています。損害保険事業では、引き受ける保険が特定の地域に偏っていると、大災害が発生した際に一度に多額の保険金支払いが発生するリスクに晒されます。そのため、保険会社が事業地域を拡大することは、単なる規模拡大だけではなく、保険引受リスクを分散によって軽減するというメリットにもつながります。東京海上ホールディングスは、アメリカのスペシャリティ保険を中心にM&Aを実施し、リスクをコントロールしながら成長を遂げてきました。2014年度から2024年度予想の10年間で主要事業の利益は1880億円から5510億円と約3倍に拡大しましたが、分散後のリスク量は3.1兆円から4.3兆円へとわずか39%の上昇に抑えられています。

政策保有株解消

M&Aの買収資金は、事業で稼いだキャッシュに加え、政策保有株の売却資金によって賄われてきました。日本では1996年代まで保険価格が自由化されていなかったため、企業は株式保有などの関係性を軸に保険を選ぶことが通例でした。その後、自由化されても株式保有関係は続きまたしが、このことは、一つに保険取引の決定プロセスが不透明になりやすいこと、もう一つは保険会社が株主としての経営監視の役割を果たさずに企業の規律を緩めてしまうこと、という二つの社会的弊害をもたらす可能性があるため、問題とされています。

東京海上ホールディングスは2000年代前半から政策保有株の売却を進めており、簿価ベースの同社の保有残高は2002年から2024年にかけて72%削減されました。近年は、毎年1000億円超の売却を行っており、そこで得られた売却資金を戦略的な投資や株主還元などに活用しています。東京海上ホールディングスは2024年5月に、保有している時価ベース約3.5兆円の政策株を2030年3月までにゼロにする方針を新たに発表しました。売却予定額は年間平均で約6000億円の規模となり、前々期の売却額1297億円、前期の2187億円から急速に増加する見込みとなります。

売却加速の背景には、損保業界で発覚した価格調整行為の原因として政策保有株が問題視されたことがあります。価格調整に関与した東京海上ホールディングスを含む大手各社は、金融庁に業務改善計画書を提出しましたが、その中で政策保有株を全て売却する方針が明記されました。

価格調整行為があったこと自体は、大変残念な知らせですが、各社の対応策を見ると、これをきっかけに業界が健全化することが期待されます。また、売却が加速することで当面は利益額の積み増しが見込まれ、成長投資や株主還元の増額が予想されます。なお、政策株売却による利益は、2024年度に 3900億円で全社の39%を占める見込みですが、これは10年前の430億円、16%と比較すると飛躍的に大きな数字となっています。

災害レジリエンスの向上

東京海上ホールディングスは2021年11月に防災コンソーシアムCOREの立ち上げを主導しました。加盟しているのは、日本を代表する大手企業を中心とした100以上の法人・団体です。この背景には、自然災害のうち保険で補償されているのは全体の3割程度にとどまっており、約7割の「プロテクションギャップ」が存在しているという課題認識があります。残り7割は保険業の事業機会と見ることもできますが、一方で資本に限りがある民間企業が保険で引き受けるには限界があります。そこで、災害を未然に防ぐ取り組みとして、専門性を持つ企業とコンソーシアムを設立し、東京海上ホールディングス自らも防災関連するビジネスを開始しました。例えば、2024年1月に発生した能登半島地震においては、気象警報や地割れ地点の情報をリアルタイムで配信し、地震による液状化被害を低減するためのコンサルティングなどを提供しています。

また、東京海上ホールディングスは、この災害レジリエンスを通じて創出される社会的価値を定量化して開示するという取り組みを進めています。具体的には「人的被害の回避」、「財物の被災防止」、「事業継続/早期復旧」などの項目を設定しています。詳細な定量データはまだ開示されていませんが、第三者の視点も取り入れながら、開示に向けた準備が進められています。

カディラによる対話

カディラキャピタルマネジメントでは東京海上ホールティングスと継続的に対話を行っています。最新のミーティングでは価格調整行為の問題を議題とし、不適切な営業方針については見直す必要があるという認識を共有しました。その上で、同社が本件を踏まえて事業の付加価値を高める機会にしようとする意識を持っていることを確認できたため、むしろ将来への期待感が高まりました。

また、東京海上ホールディングスが社会的価値の定量化を通じて顧客の支持獲得、従業員の活力アップ、サービスレベルアップ、投資家からの評価上昇を目指していることについても意見交換を行い、企業価値向上につながる道筋を明確に示すことが重要であるということを確認しました。東京海上ホールディングスのような歴史のある大企業が、率先して社会的価値の定量化のような新しい取り組みに挑戦することは、日本企業全体に大きな刺激を与えると考えられます。システム全体に対しての働きかけにつながる企業活動はポジティブに評価されるべきであると私たちは考えています。

札幌市との対話

カディラでは、「インベストメントチェーンを先へとつなぐ」というミッションのもと、様々なステークホルダーとの対話を行なっておりますが、先般札幌市の職員の方々と金融・資産運用特区での取り組みについて意見交換を行ないました。その内容や北海道の地の利を活かした成長機会についてご紹介します。

札幌市は北海道と共に、国内外の金融・資産運用会社の新規参入や業務拡充を促進し、成長分野への資金供給を強化することを目的とした「GX金融・資産運用特区」の指定を受けました。この特区は、特に、再生可能エネルギーのポテンシャルを活かし、GX産業のサプライチェーン構築や雇用創出を目指しています。これにより、北海道・札幌がアジア・世界の金融センターとしての地位を確立し、世界中から資金・人材・情報が集まる拠点となることを目指しています。

GXは再生可能エネルギーへの転換を目指す取り組みであり、8つのプロジェクトからなります。特に、洋上風力発電をはじめとする再生可能エネルギーのポテンシャルは全国随一です。既に、世界最大規模の系統蓄電池が設置されたり、データセンターの相次ぐ新設、また次世代半導体製造のラピダス社が総額5兆円規模の投資を決定するなど、今後10年で総額40兆円程度の投資呼び込みが見込まれています。そして、これらを支える金融機能の強化を推進するために、資産運用業も積極的に誘致していきたいとの事です。

本特区は、グリーン投資と金融機能の集積を通じて、持続可能な経済成長と環境保護の両立を目指す革新的な取り組みです。ご対応頂いた札幌市職員のお話からは、これを単なる構想のままで終わらせるのではなく、北海道・札幌市の持つポテンシャルを最大限に活用しようという強い意欲が感じられました。資産運用業の観点では、特色のある運用会社が進出することは資本市場の活性化にもつながるので期待したいところです。しかし、なかなか既存の運用会社が札幌に本社移転をすることは難しいので、バックアップやサブの拠点としてなら設置するメリットがありそうだと伝えました。これはBCPの観点のみならず、特に夏の猛暑などの気候面を勘案すると、比較的涼しい北海道の環境においては、多様な人材の獲得や従業員のウェルビーイングに資することにもつながりそうです。

また、実際に、北海道の洋上風力発電施設や陸上風力発電施設、建設中のラピダス新工場などを見学してきました。カディラでは、これまでの東京一極集中から、地方の強みを活かした経済成長について注目していますが、特に北海道は広大なエリアや気候面などの地の利を活かし、今後の成長が期待できると考えており、投資機会について、継続的にリサーチをしていきたいと考えています。併せて資産運用業界の活性化という観点で、特区における札幌市の取り組みに注目すると共に対話を続けてまいります。

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