
参加者:
株式会社かんぽ生命保険 執行役員兼運用企画部長 野村裕之氏(写真中央右)
大和アセットマネジメント株式会社 社外取締役 小野塚恵美氏(写真右)
大和アセットマネジメント株式会社 運用本部 運用副担当兼スチュワードシップESG担当兼調査部長 参与 塩田淳氏(写真左)
カディラキャピタルマネジメント株式会社 代表取締役CIO 清水裕(写真中央左)
カディラキャピタルマネジメント株式会社(以下、「カディラ」)は、株式会社かんぽ生命保険(以下、「かんぽ生命」)、株式会社大和証券グループ本社(以下、「大和証券グループ本社」)、および大和証券グループ本社の連結子会社である大和アセットマネジメント株式会社(以下、「大和アセットマネジメント」)の新興運用会社促進プログラム(Emerging Manager Program, "EMP")における第一号案件を受託いたしました。これを受けて、EMPのオーナーであるかんぽ生命の野村氏、大和アセットマネジメントから塩田氏をお招きし、お話を伺いました。モデレーターは、大和アセットマネジメントの社外取締役である小野塚氏に務めていただきました。
―小野塚氏:まずは「EMPとはそもそも何か?」というところからお聞きしたいと思います。
野村氏:やはり一番大きなポイントは、「資産運用立国を目指す」という国の方針が示されたことです。その中で、EMPが明確に取り上げられた。私たちは、資産運用立国に貢献するアセットオーナー、いわゆるユニバーサルオーナーとして、長期的な資金を運用する立場にあります。だからこそ、この取り組みに貢献していきたいという思いがあります。そして資産運用立国の実現に向けては、「アセットオーナー・プリンシプル」が重要になります。顧客第一主義を掲げ、運用を委託される立場として、常にお客様の視点に立って行動することが求められます。その上で、日本の金融市場全体が活性化し、拡大していくことは、国民の金融資産を増やしていくうえでも非常に重要な意味を持っています。資金が国内で好循環を生むような仕組みを構築することが、今もっとも必要だと感じています。
ただし、私たち機関投資家は、これまでリスクとリターンのバランスを慎重に見極めながら資金配分を行ってきました。特に、運用実績(トラックレコード)がない運用会社や、新しい市場に対しては警戒感が根強く、資金がなかなか回らないという現状があります。日本国内でも、イノベーションが起きるような新しい市場への投資が十分に進んでいないのが現実です。
そういった流れを打破し、資金が回っていない領域にしっかりと投資が向かうようにすること。それが市場の活性化に繋がり、結果的にそこに関わる多くの人が恩恵を受けるようになると考えています。そのための架け橋となるのが、まさに新興運用会社(EM)です。海外でも、EMの育成とその活性化が新たなマーケットを創出し、そこに資金が流れ、さらにその運用成果が新たな資金を呼び込むという好循環が生まれています。日本でも同様に、今までとは異なるスタイルの運用を創り上げていく必要があると感じています。そうした新しい社会づくりの一端を担うという意味でも、私たちの運用資金の一部は、こうしたEMに配分されるべきではないかと考えました。
EMPに対しては非常に前向きな姿勢で、「一緒に育てていく」というスタンスで取り組みたいという思いから、私たちは運用委託方針を策定し、2028年度末までに3,000億円の運用委託枠を設けることとしました。

塩田氏:私たちもアセットマネージャーという立場ですので、このプログラムに関しては、いわば競合関係にある他の運用会社をどうサポートすべきかという点は、非常に悩ましく、慎重に考えなければならないテーマでした。しかし、国策として掲げられている「資産運用立国」という大きな流れを踏まえたとき、我々のような大手運用会社が長らく営んできた中でも、まだまだ開拓されていない、資金供給が十分できていない領域というのは多く存在しています。そこに対して、新たなマネージャーたちと一緒に取り組んでいくことには、大きな意義があると感じました。
では、私たちにできる貢献とは何か。そう考えたとき、当社にはミドルオフィスやバックオフィスの機能、そして商品組成に関するノウハウが蓄積されています。こうした強みを活かして、EMが資金を新たなマーケット に届けていく支援をすることは、我々にできる大きな役割だと考え、ぜひこのプログラムに参画したいと思いました。
一方で、アセットマネージャーとして我々が運用する資金はすべてお客様からお預かりしているもので、自己資金を運用しているわけではありません。となると、ファンドを自ら組成して販売するのか、あるいは別の形で資金を集めるのか―この点についてはしっかりと検討する必要がありました。その中で、かんぽ生命との提携関係があり、協力しながらこのプログラムを運営していくことが、当社として最も適切で実現性のあるアプローチではないかと考えました。かんぽ生命には資金があり、我々は運用・組成における実務力やノウハウがあります。両社の目指す方向性が一致しているからこそ、このプログラムに取り組むことになった、という経緯です。
ー小野塚氏:実は私自身も、アセットマネジメント業界に25年ほど関わってきた中で、かつてEMの立場だったことがあります。当時は、どこから資金を集めるのか、どうやって運用規模を拡大していくのか、本当に悩みました。今のような支援プログラムはまだ存在しておらず、最初の一歩には大変苦労したことを覚えています。その中で、カディラとしてこのEMPというプログラムをどう受け止めましたか。
清水:当社は2022年5月に設立したので、ちょうど3年目に入ったところです。やはり立ち上げ当初は、「どこから資金を集めるか」というのが一番の課題でした。地道にやっていけば、いつか評価されるという少し青臭い考えも持っていた一方で、現実としては「どこを狙っていくか」が非常に重要だとも感じていました。
そんな中、EMPの話が出てきたのです。率直に言えば、「これは本当に幸運だな」と思いました。実は、EMPが正式に始まる直前、大和証券のファンド開発担当の方と意見交換する機会がありまして、その中で「NISAのように投資家を育てるだけでなく、長い目で見れば『目利き』をする人も育てていかないといけない」というお話をいただきました。この言葉に非常に共感しましたし、我々にとってもありがたい視点でした。そんな風に感じていた矢先にEMPの具体的な話が一気に動き出して、2023年の年末頃から本格的に展開されていったという流れです。
現実的に考えても、我々のようなEMにとって、EMPはやらない手はない取り組みでした。市場としても、供給側(EM)が圧倒的に少ない状態。つまり、資金を託す側とのバランスがまだ取れていないということです。それと同時に、もう少し理想論的な観点からも、意義を感じています。野村さんもおっしゃっていたように、これは「産業育成」にもつながる活動です。つまり、単に自分たちの事業を成長させるということだけでなく、日本全体の金融産業をアップグレードするための取り組みなんだという意識が芽生えました。
実際、かんぽ生命や大和アセットマネジメント、さらに金融庁の方々とも意見交換をする中で、EMPの意義がより鮮明になってきました。ビジネスとしての側面ももちろんありますが、それ以上に、我々自身が「良い事例」になることで、後に続く他のEMたちに対して良い循環を生み出せる。そんな役割を果たせるのではないかと、社内でも議論しています。

小野塚氏:ありがとうございます。カディラとは、これまでもさまざまな場面でご一緒する機会がありましたが、私が御社の強みとして感じているのは、「ファーストペンギン」であることを恐れない姿勢です。EMを評価するうえで大事なのは、リスクをしっかり取る覚悟を持っているかどうか。その意味で、御社はまさに「リスクテイカー」としての姿勢を体現しておられると思います。運用会社として、その胆力や姿勢は非常に頼もしく、素晴らしいと感じています。
―小野塚氏:EMPの仕組みについて伺いたいと思います。今回の取り組みにおいて、このプログラムはどのような体制で運営されているのか、ぜひ教えてください。
塩田氏:まず我々大和アセットマネジメントがこれまで培ってきた、商品企画や組成提案のノウハウを活かしながら、「ゲートキーパー」としての役割を担っています。具体的には、かんぽ生命の資金を活用して、我々が選定したファンドを運用するという構造でスタートしています。今回のケースでは、一般社団法人東京国際金融機構※(FinCity.Tokyo)のEM Showcaseで紹介されたEMの中から候補を見つけていく、という流れもありました。ただ、それに限らず、その他の案件も含めて我々が個別にデューデリジェンス(DD)を行い、このプログラムにふさわしい運用会社とはどこか、今後伸びていく可能性のある運用会社はどこかを精査しながら、対象となるマネージャーを探しています。
(※一般社団法人東京国際金融機構は、東京が世界に冠たる国際金融都市になることを目指し、官民連携で取り組む各種プロモーション活動を推進する組織です。)
今後は、こうした取り組みを通じて、アセットオーナーの皆さまにも視野を広げていただき、EMの育成に共に取り組んでいただくことが重要になると考えています。そして将来的には、このプログラムの趣旨に賛同いただける他の機関投資家にも参加していただき、かんぽ生命の資金とは別に、さらに新たな資金を呼び込んでいける仕組みにしていきたいと考えています。今回、その最初の事例として、カディラのファンドを立ち上げたという位置づけです。
今後、EMPに参加するEMをどう見つけていくかについては、我々としてもアンテナを広く張っていきます。EM Showcaseのようなプラットフォームを活用するだけでなく、様々なルートからのご紹介も想定しています。たとえば、カディラのパフォーマンスが非常に良ければ、それを見て「自分たちもチャレンジしたい」と思うEMが出てくるかもしれません。そういった方々からの自発的なアプローチも歓迎ですし、我々としてもフェアな視点でDDを行い、選定していく方針です。

小野塚氏:やはり今後、EMの皆さんには、「私たちはここにいます。こういう運用をしています」ということを積極的に発信していってほしいと思います。直接アセットオーナーにアピールするだけではなく、EM Showcaseのような場を活用するという選択肢ができたのは、とても意義深いことですよね。
ー小野塚氏:カディラは、今回FinCity.Tokyoが主催する「EM Showcase」に参加されたとのことですが、これは具体的にどういったプログラムなのでしょうか?
清水:まずこの「EM Showcase」ですが、主催しているFinCity.Tokyoは以前から、「EMを育成する」ことに力を入れてきました。たとえば「独立開業道場」という名称で、すでに独立して運用を始めているEMを講師に招き、独立を検討している方々向けに勉強会を開催する、といった活動も行っています。
そして2024年からは、それをさらに一歩進めた形で、「このようなEMがいます」ということを社会に発信する場として、EM Showcaseがスタートしたわけです。このショーケースでは、FinCity.Tokyoが自らネットワークを通じて有望なEMをリサーチし、その中から選ばれた運用会社が紹介されます。2024年には15社が選出され、そのうちの1社として私たちカディラも参加しました。2025年には、さらに23社ほどが選ばれました。おそらく、今後も継続して毎年開催されるのではないかと思います。このプログラムに関しては、我々が自ら応募したというよりも、FinCity.Tokyo側からお声がけいただき、リサーチの結果として選定していただいたというのが実情です。
小野塚氏:FinCity.Tokyoも本当に多様な取り組みをされていて、私自身も何度か登壇やモデレーターとしてご一緒させていただきましたが、とても素晴らしい活動だと感じています。私が特にいいなと思うのは、海外のベストプラクティスを積極的に日本に取り入れようとする姿勢があることなんですよね。そして、これはEMに関して、日本ではまだまだ整備されていないと感じる部分でもあります。たとえば、アセットオーナー側のお話にもあったように、過去のトラックレコードがないと投資判断すらされない、というのは本当に残念な現状だと思います。
でも、海外では違いました。たとえばカナダやアメリカでは、アセットオーナーが大部分は堅実な運用に充てつつも、一部を新興のマネージャーにリスクを取って投資する。その際も、しっかりDDを行ったうえで、将来性に期待して投資をする。そうした「応援の気概」が海外の機関投資家にはありました。
FinCity.Tokyoは、そうした海外の事例をきちんと捉えて、日本でも実践できるような形にプログラムとして落とし込んでいる。その点においても、本当に評価されるべき存在だと思います。そして何より、こうした取り組みが、実際に繋がっていくことに大きな期待を抱いています。

野村氏:先ほども申し上げましたが、今回非常に大きかったのは、「資産運用立国」戦略の中にEMを育成していきましょう、という方針が明確に盛り込まれた点です。そして、その枠組みの中にEMの「ショーケース」が組み込まれている。これは、いわば大きな旗を掲げていただいたことで、機関投資家が動きやすい環境が整ったということになります。
もしこのような国家戦略の枠外で「EMを支援しましょう」と言っていたら、ここまでのインパクトはなかったと思います。全体の仕組みの中に位置づけられているというのは非常に大きな意味を持っていて、そのなかで「ショーケース」という仕組みが用意されている点も評価できます。これは「この中から投資先を選んでください」というリストではなく、「こういうEMがいますよ」という展示=ショーケースなんです。そこに順位付けなどはなく、あくまで投資家にとっての発見の場。今後も継続的に開催されていくとのことで、非常に良い仕組みだと感じています。
野村氏:一方で、我々のようなアセットオーナーは、これまでトラックレコードに非常に重きを置いてきたという背景があります。過去の成績を重視するあまり、未来の可能性を見逃してきた部分もある。特にEMはファンドマネージャーの人数も少なく、運用体制も大手と比べて整っていないことが多い。そのため、これまでと同じようなDD手法では対応しきれない部分があり、新しい評価方法を構築していく必要があります。
もちろん、いきなり大きな金額を投資するのは難しい部分もありますが、それでもまずは小さくスタートして、数を重ね、分散しながら多様なEMを発掘していくことが日本の資産運用業界の活性化につながっていくと考えています。アセットクラスを問わず、特徴的な強みを持ったEMをどう選ぶかが鍵になるでしょう。
目利きにおいては、トラックレコード以外の要素、たとえば将来性、戦略の独自性、ファンドマネージャーの哲学なども含めて、きちんと見ていかなければなりません。強いアセットマネージャーやDDの専門家とも組みながら、新しいDDの在り方を模索していく。その意味では、我々のような大きなアセットオーナーが先に動くことで、「かんぽ生命が投資したのなら当社も」といった形で後続が続きやすい環境を作ることも重要です。こうした動きが、日本の株式市場や未成熟な領域に資金が流れ、新たな市場の成長や企業の発展に繋がることが、最終的には受益者にとってもプラスになります。
とはいえ、スピード感を持ちつつも、やはりこれは我々にとっても初めての経験です。アセットマネージャーやコンサルタントと連携しながら、なるべく丁寧にDDを進め、どこに投資すべきで、どこは避けるべきなのか、そういった判断軸をしっかり持つ必要があります。
「新興運用会社であれば無条件で支援する」ということではありません。やはりそこにも目利きの力が求められます。まずはショーケースという“お店”で展示されるところから学び、スキルを蓄積していく。そうしたステップを踏む中で、次のフェーズへと進んでいく仕組みになればと思っています。

小野塚氏:ありがとうございます。少しリフレクションさせてください。今回、印象的なキーワードが3つほど浮かび上がったように思います。
まず一つ目は「目利き力」についてです。これは、アセットオーナーや専門家として、他の運用会社と連携するにあたっても必要不可欠な能力です。ただ、これまで日本ではこの“目利き”がきちんと評価され、根付いてこなかった背景に、「説明責任と一体となっていなかった」という点があるのではないでしょうか。つまり、「なぜその投資先を選んだのか?」「自社が持つ目利きの強みは何か?」といった、意思決定の“プロセスに対する説明が不十分で、結果だけに反応が返ってくる構造になっていたように思います。これは、株式会社や事業会社における投資判断についても、同様の傾向があったのではないでしょうか。一方で、イギリスやアメリカなどでは、以前から「説明責任を果たすことが当たり前」という文化が根付いており、それが投資家側の目利き力を発揮しやすい環境を整えてきました。日本でも今、対話や情報開示が進んできたことで、「目利き」と説明責任が一体となって語られる、そういう新しい時代に入りつつあると感じています。
二つ目のキーワードは「分散」です。新興企業やスタートアップに通じる話ですが、10社中10社が成功するわけではない。3年以上事業を継続できる保証もない。そうした中でも、チャレンジしていく姿勢と、広く分散して投資することが非常に重要です。
三つ目に挙げたいのが「呼び水」という概念です。私が関わっているサステナブルファイナンスの分野でも、この考え方は極めて重要です。特に創成期では、「いいことをしているのに知られていない」「一定規模の資金がないと実現できない」という壁が存在します。たとえば脱炭素や社会的インパクトの創出など、意義ある取り組みに対して、最初の「ひと押し」になる存在が必要です。そういう意味でも、今回のようにかんぽ生命が初期の支援者として入ることは、まさに「呼び水」の役割を果たすものであり、大きな意義があると感じます。今回の文脈で言えば、カディラのようなインパクトを考慮した投資に取り組むEMが、この「呼び水」となる投資によって注目され、社会的にも経済的にも価値ある存在として広がっていく、そんな流れを期待しています。
ー後編へつづくー
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