
昨今、日本市場ではM&Aやアクティビストの活動が活発化しています。持ち合い株解消によって安定株主比率が低下していることが背景の一つにあると考えられ、この傾向は今後も続く可能性があります。そのため、上場企業が、対峙する機関投資家がどのような方針でスチュワードシップ活動(企業との対話等)に臨むのかという点に、関心を高めていくことが予想されます。
企業姿勢を理解する上で参考となるのが、GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が企業に対して情報収集して作成している一連の報告書です。GPIFは3月に「スチュワードシップ活動報告」(1)、4月に「企業インタビュー~機関投資家によるエンゲージメント 企業から見た評価と課題~」(2)、5月に「機関投資家のスチュワードシップ活動に関する上場企業向けアンケート集計結果」(*3)に公表しています。
これらの報告書の中でGPIFは、運用機関に対して、エンゲージメントの高度化への対応を期待していることを明記しています。機関投資家のエンゲージメントの質と実効性が問われる中、今後の方針を考えるうえで極めて示唆に富む内容です。 以下、GPIFの報告書の中で押さえておくべきだと思われる点を整理して記述します。
① 運用機関のマイルストーン管理
運用機関がマイルストーン管理(個々のエンゲージメントに対して達成目標を設定し、その目標達成に至るまでの対話や企業の対応を複数の段階に分けて管理する手法)を通じて、エンゲージメントの実効性を高める取組みが紹介されています。さらに、明確なエスカレーション戦略を整備する機関も増加しています。
② エンゲージメントの効果検証
運用機関においては、学識経験者と連携し、エンゲージメントが企業行動の変化や企業価値、投資パフォーマンスに与える影響についての効果検証が広がっています。
③ 不祥事が発生した企業へのエンゲージメント
不祥事が発生した企業に対しては、運用機関は不祥事の重要性(行政処分の有無、収益への影響、組織的関与の有無など)を確認した上で、再発防止策の内容、経営トップのコミットメント、その実施状況などを精査し、不祥事発生に対する結果責任との整合性を踏まえて賛否を判断しています。
④ 社数ベースでのエンゲージメント実行比率
社数ベースでは、GPIF保有銘柄の45%についてエンゲージメントが実施されています。
⑤ 上場企業側の、機関投資家エンゲージメントに対する評価
GPIFによるインタビューを通じて明らかになった企業側の評価は、機関投資家によるエンゲージメントが一定の成果を上げつつある一方で、依然として対話の質と深度には課題が残ることを示しています。
ポジティブな点としては、「エンゲージメントが企業経営に対して一定の影響を与え始めている」という評価が見られました。たとえば、企業戦略と企業価値の関連を明示した開示が評価されており、社会的インパクト指標に関する議論も着実に進展しています。また、統合報告書を起点とした対話が定着しつつあり、これにより社外取締役との対話機会も増加しています。さらに、資本コストや株価を意識した経営への理解が深まり、気候変動をテーマとした協働対話が活発化するなど、経営の方向性に一定の変化が生まれています。
ネガティブな点としては、「対話の形式化や表層化により、企業が実質的な意義を感じにくい場面が多い」という懸念が示されました。具体的には、対話テーマが限定的で企業全体の戦略や課題にまで踏み込めていない点や、ESGに関する質問の提示が遅れ、企業側の十分な準備ができないまま対話が行われるケースが挙げられます。また、短期業績への関心が根強く、長期的視点を欠いた対話が多いことや、定型的な質問の繰り返し、ESGマテリアリティの曖昧さが対話の質を損なっているという指摘もあります。加えて、対話内容が投資判断とどう結びついているのかについて投資家の説明が不十分であるとの不満や、議決権行使において形式的な判断や対話不足に対する懸念も見られました。
*3 https://www.gpif.go.jp/esg-stw/202405_stewardship_questionnaire_10.pdf
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