
「人口減少する国に投資する理由はあるのか?」
これは日本株投資を専門にしているポーフォリオマネージャーにとって避けられない質問である。そこで、人口減少を切り口として日本でサステナビリティ貢献と投資リターン獲得を両立するにはどのような視点が必要かを以下にまとめてみた。
まず、日本の人口動態を振り返ってみよう。江戸幕府ができた1600年から見てみると100年程度かけて2.5倍程度に増加した日本の人口は、1700年前半から1800年代中頃までは約3000万人でほぼ横ばい推移となっていた。その後、1868年の明治維新をきっかけに近代化に舵を切った日本の人口は急速に増加し始める。第二次世界大戦で一時的に人口が減少したものの、人口増加トレンドは変わらず2008年には当初の約4倍の1.28億人に達し、そこでピークをつける。そして140年間の上昇トレンドは終わり、減少トレンドへと転換して今に至っている。
さて、人口減少を食い止めることができればいいが、日本では1994年から少子化対策を行っているがなかなか成果が出ない。そこで、ここでは人口減少が続くことを前提として話を進めよう。人口減少から派生する課題に対して企業はどのように向き合うべきか、そしてそれらの課題を解決し、価値創出につなげるにはどうしたらよいか。以下に3つの視点を挙げてみるので参考にしてほしい。これらはいずれも人口構成の変化に対応し、社会の持続性を高めることに資する取り組みとして、投資家がエンゲージメントを通じて貢献できる領域でもある。

出所:国土交通省「国土の長期展望」中間とりまとめ(*1)、総務省「人口推計」(*2)よりCCM作成
日本においては事業再編や雇用調整が行いにくい法制度の影響で、事業ポートフォリオの絞り込みがなされてこなかった。特に1990年以降からの長期の景気低迷の中で企業は過剰な人材を抱えることとなり、低採算部門が雇用の受け皿としての役割から温存される状態となっていた。その結果、企業レベルで見ると社内リソースの分散、業界レベルで見ると成熟産業における過当競争という問題を生みだしてきた。
しかし、人口が減少する中で企業が置かれた状況は変化している。従業員が過剰でなければ不採算部門を維持する必要はなくなる。今はむしろ人手不足が叫ばれており、限られたリソースをコア事業にフォーカスすることが合理的である。すでに実例が現れている。例えば日立製作所は過去10年かけて大胆な事業ポートフォリオ改革に取り組み、かつては典型的なコングロマリットだったが、今はITを活用した社会インフラ運営会社へと変貌を遂げた。
この動きを後押しする流れが生まれている。今年注目すべき二つの変化が起きて、企業再編に適した環境が整いつつある。一つはスピンオフにかかる税制が緩和されたことで、これにより企業は部門売却によるポートフォリオの整理を行いやすくなった。2023年5月にはこの制度を活用してソニーグループが金融部門をスピンオフすることを発表している。もう一つは経済産業省が8月に「企業買収における行動指針」(*3)を見直したことで、これによって買収提案が通りやすくなった。このガイドラインを受けて、NIDECが早速TAKISAWAに買収提案を行い10月に成立する見込みである。
人手不足をきっかけとした経営者の意識変化と、それを後押しする政策によって、事業ポートフォリオの再構築が行われれば、経営効率の向上や過当競争の収束によって企業利益が押し上げられる。そこで生まれた利益が適切に再投資されるならば、最終的には経済と社会にとってポジティブな循環が生まれる。逆に、利益が再投資に回らないで内部留保や過剰な株主還元に回ってしまえば好循環は生まれない。良い流れを生み出すためには何より経営者の意思が不可欠であり、それを支える株主の協調的なエンゲージメントも重要な役割を担うことになるだろう。
グローバル化と聞くと、言い尽くされたテーマに感じる人も多いだろう。むしろ最近は貿易摩擦や武力紛争によってグローバル化の流れは逆回転しているようにも見えるが、日本に目を向けると「国内のグローバル化」が進展し始めていることが見て取れる。
日本では人口減少に伴う労働力の確保が重要な課題となっており、これを埋め合わせる形で外国人労働者の数は増加を続けている。人口減少の半分程度を外国人の増加で補っている状況であり、COVIDパンデミック期間中においても増加が続いていた。
背景には日本政府の誘致策がある。日本は正式に移民の受け入れを表明していないものの、日本に移住するハードルは年々低くなってきている。2019年から人手不足が深刻な建設業と造船業で在留期間の上限(5年)が撤廃され家族の帯同も可能となった。2023年から対象業種がサービス業など11業種に拡大する。また、高度専門職は1年で永住権を獲得できるほか、投資ビザに近い形の在留資格である「経営・管理ビザ」に求められる金額はわずか500万円である。
それでも、2022年段階で外国人労働者は182万人(*4)と全体に占める比率は3%弱に留まっており、他の先進諸国と比して受入余地は大きい。7月に岸田文雄首相が「外国人と共生する社会を考えていかなければならない」と語ったことなどを鑑みると、今後、外国人の受け入れについて制度の見直しが更に進む可能性もあるし、もし仮に正式に移民受け入れを宣言することがあれば、イメージの変化によって関心を持つ人が増えるだろう。
民間の動きもグローバル化を促進力になる。8月の訪日外国人観光客数はCOVIDパンデミック以前の85%程度まで回復してきている。インバウンド観光は、目先では観光やショッピングなどへの恩恵につながり、長い目で見ると外国人との共生の下地作りにつながる。また、AIの進化による翻訳精度の向上も「国内のグローバル化」にプラスに働く。日本では外国語に対して恐怖心に近い苦手意識を持つ人も多いが、テクノロジーの活用によって苦手意識が解消されれば、外国人に対しての受け入れ態度は更に寛容になるのではないか。例えば個人間取引プラットフォームを運営するメルカリは2018年にエンジニア採用の9割を外国人にした。多様なメンバーが、言語や文化的な価値観の違いに関わらず活躍できるようにするための環境整備を行ない、現在では東京オフィスに50か国以上の国籍の社員が勤務している。
メルカリほど極端である必要はないが、日本人優位の人事体制から脱却して、増加が見込まれる外国人を含めたすべての従業員が活躍しやすい労働環境を整備することは、今まで以上に重要性を帯びてくる。投資先選定においても外せない観点であると同時に、株主としてエンゲージメントが必要な領域であると言えよう。
視点の締めくくりとして「健康経営」という点に触れたい。結論から言えば、人口減少社会においては、経営者が従業員の健康を重視している企業を選別すべきである。
| 総人口(千人) | 寿命 | 健康寿命 | 不健康期間 |
Japan | 124,613 | 84.3 | 74.1 | 10.2 |
China | 1,425,894 | 77.4 | 68.5 | 8.9 |
United States of America | 336,998 | 78.5 | 66.1 | 12.4 |
Mexico | 126,705 | 76.0 | 65.8 | 10.2 |
Brazil | 214,326 | 75.9 | 65.4 | 10.5 |
Bangladesh | 169,356 | 74.3 | 64.3 | 10.0 |
Russian Federation | 145,103 | 73.2 | 64.2 | 9.0 |
Indonesia | 273,753 | 71.3 | 62.8 | 8.5 |
India | 1,407,564 | 70.8 | 60.3 | 10.5 |
Pakistan | 231,402 | 65.6 | 56.9 | 8.7 |
Nigeria | 213,401 | 62.6 | 54.4 | 8.2 |
出所:WHO「World health statistics 2023」よりCCM作成
日本の総人口は減少したとは言え、世界で11番目に多い。WHOの統計(*5)を見てみるとそして平均寿命は84.3歳で世界一。下表で人口の多い10ヶ国との比較をしているが、日本の寿命は圧倒的に長い。
WHOが定める高齢者の定義は65歳以上の人を指すが、国によってその意味合いは大きく異なる。65歳と言えば、ナイジェリアにおいては平均寿命を超えて生きた人であり、日本ではこれからまだ20年近く生きることが見込まれる人のことである。
寿命の長い国のランキングを見てみると、日本は単に寿命が長いだけでなく、健康寿命でも世界一となっていることが確認できる。念のための記述となるが、寿命から健康寿命を差し引いた「不健康期間」は10.2年で他国と大きな差はないことから、不健康状態を医療で支えて長生きしているわけではなく、普通に長く健康であり続けているということが見て取れる。
健康な人が仕事に生きがいを求めるのは良い選択肢の一つであろう。2022年現在、日本では65歳以上の25.1%が働いている。これは10年前と比較すると5.6%ポイントの上昇となっている(6)。上で見た通り日本人は平均して74.1歳まで健康であることに加え、2023年8月の有効求人倍率1.29倍(7)、失業率2.7%(8)と人手不足を背景に求人需要は強含みが続いていることから、65歳以上の就業率は今後さらに上昇する可能性がある。参考までに諸外国で見るとインドネシア41.7%、韓国37.3%、アイスランド32.6%など、日本より大幅に就業率が高い国もある(9)。
人口減少による採用競争が激化する中、社内業務に通じた人材が65歳を超えて働き続けてくれることのメリットは計り知れない。もちろん年齢を重ねるにつれて業務パフォーマンスが低下することは懸念事項だが、その点については年齢そのものよりも健康状態が重要な要素になるだろう。
従業員の健康状態を推察する上では、経済産業省が取りまとめている「健康経営」に関するデータが有益だろう。2014年度からアンケート調査を行い、優良企業は「健康経営銘柄」として開示を行っている。経済産業省のまとめによれば、健康経営に取り組むことによって営業利益率や株価リターンにプラスの影響が出るというデータが見られる(*10)。従業員の健康状態が良ければパフォーマンスが高くなるというのは感覚的にもうなずける。
つまり、経営者が従業員の健康を重視している企業を選別することが理にかなっているということだが、人口減少社会においては特にその重要性が際立つと言えるだろう。
最後にCCMの投資方針について簡単に述べたい。CCMは社会課題解決と経済価値創出を両立する企業に対して投資を行い、エンゲージメントを通じてその活動を支援していくことを投資方針の基本に据えている。その投資方針に従い、人口減少という日本の社会課題に対し、課題解決が経済的な価値に結び付くシナリオを検討した結果、上記三つの視点にたどり着いた。また、これらの視点は我々のエンゲージメント活動におけるアジェンダの一部でもある。企業のポートフォリオ再構築、グローバル化、健康経営を後押しすることは一人一人のウェルビーイングと経済の発展に貢献する活動である。これらをサポートすることで最終的に投資リターンを創出することが、CCMの目指している投資である。
出典
*1 https://www.mlit.go.jp/policy/shingikai/content/001377610.pdf
*2 https://www.stat.go.jp/data/jinsui/2.html#series
*3 https://www.meti.go.jp/press/2023/08/20230831003/20230831003.html
*4 https://www.mhlw.go.jp/content/11655000/001044540.pdf
*5 https://www.who.int/publications/i/item/9789240074323
*6 https://iris.who.int/bitstream/handle/10665/356584/9789240051140-eng.pdf?sequence=1
*7 https://www.jil.go.jp/kokunai/statistics/shuyo/0210.html
*8 https://www.stat.go.jp/data/roudou/sokuhou/tsuki/index.html
*9 https://data.oecd.org/emp/labour-force-participation-rate.htm
*10 https://www.meti.go.jp/policy/monoinfoservice/healthcare/downloadfiles/H30kenkoujumyou-report-houkokusho.pdf
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