2025/4/2

GPIFによる「インパクトを考慮した投資」について(4月2日更新)

日本のインパクト投資コミュニティの中では「GPIFがインパクト投資を始める」と言うことが話題になっています。これは、2024年11月25日、公的年金を所管する厚生労働省から、年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)が「インパクトを考慮した投資」を行えるという見解が発表されたことがきっかけです(*1)。(4月2日追記:2025年3月31日に発表された第五期中期計画(*2)の中で、GPIF自身からも正式に取り組む方針が発表されました)。ここでいうインパクトとは投資先企業がもたらす「社会的・環境的効果」のことで、例えば温室効果ガスの排出削減などを指します。

GPIFは法律によって「専ら被保険者の利益のため」に運用することが求められています。つまり「他事考慮」と呼ばれる被保険者の利益以外を考慮すること、例えば年金とは関係のない政策目的のために年金積立金の運用を行うことなどはできない仕組みとなっています。

他事考慮の範囲に何が含まれるのかは解釈に幅があり、インパクトがそれに該当するのかどうかについても議論がすすめられていましたが、今回の発表によって「投資収益の向上の観点からインパクトを考慮すること」は他事考慮に当たらない、ということが明確に示されました。

しかし、発表内容を丁寧に見ると、GPIFが行うことができるのは「インパクトを考慮した投資」と記されていて、「インパクト投資」という表現は使われていません。これはどういうことでしょう。

インパクト投資には市場平均以上のリターンを目指すタイプと、目指さないタイプの両方が存在します。一方で、GPIFは投資収益の向上の観点を外すことができないので、投資対象に含めることができるのは前者の「市場平均以上のリターンを目指すもの」のみになります。つまり、厚生労働省の発表は、GPIFの投資対象を明確化するために、インパクト投資の中で市場平均以上のリターンを目指す運用を、「インパクトを考慮した投資」として切り分けた、というのが適切な解釈でしょう。これはPRI(責任投資原則)が「インパクトをもたらす投資に関する法的枠組み」の中で提示している、「手段的IFSI」と近しい概念であると考えられます(*3)。

また、発表された資料の中で、「インパクトを考慮した投資」は従前から行っている「ESGを考慮した投資」との対比で説明されています。「ESGを考慮した投資」はESG指数に基づくパッシブ型の株式運用のことを指しますので、それと対比されている「インパクトを考慮した投資」はインパクト要素を統合したアクティブ型の株式投資が想定されているのではないかと推測されます。

さて、投資においてインパクトを考慮することは新しい分野であり、まだ業界標準の手法は存在していません。そのような先進的な分野において、投資手法を開発する際には業界関係者がそれぞれの視点から実務的な課題を見つけ、対処していくことが求められます。幸いにして、日本では官民連携で社会的インパクト、またはインパクト投資ということについて議論する土台ができつつあります。GPIFが「インパクトを考慮した投資」を行う方針が固まったことは、この動きを後押しすることになると期待されます。カディラとしても、資産運用者の立場として、新しい投資手法の開発や関係各所との意見交換を通じて、この流れに貢献したいと考えています。

最後に参考として、カディラが考える資産運用者視点での上場株式投資にインパクト要素を統合する際の実務的な課題を以下に列記します。

①    業務負担の増加

インパクト投資においては通常の投資活動に必要な調査に加えてインパクトについての調査が必要になります。業務量が増加し、コストが増加すれば、それはファンドリターンか運用会社の利益のどちらか、または両方を圧迫します。

この問題に対処するために運用者には効率的な業務オペレーションを構築することが求められます。投資判断とインパクト評価を一体化する組織作りや、ITシステムの活用などを推進することが解決策になりうるでしょう。

②    投資ユニバースの限定

インパクトのターゲットを特定分野に絞ると、投資ユニバースを限定することにつながります。効率的市場仮説に立脚すると、投資ユニバースを絞り込むことは最適なリスク・リターン特性から乖離することを意味するため、インパクトのターゲットを絞り込みすぎると、市場平均を超えるリターンを上げることの蓋然性が低くなります。

市場平均以上のリターンを求めるためには、インパクトのターゲットの幅を広めに設定するなどの工夫が必要になります。また、上場企業の場合は複数の事業を営んでいることが一般的であるため、インパクトに該当する売上比率について規律と柔軟性のバランスも必要になります。

③    投資判断の複雑化

インパクトを考慮した企業評価を行うと、リスク、リターンの軸にインパクトが加わった三次元構造になるため、投資判断が複雑化します。例えば、インパクト性を高く評価している投資先の株価が急騰して割高になった場合に投資し続けるかどうか、といった難しい状況が発生する場合が起こりえます。

安定した投資判断をし続けるためには、インパクトの要素を既存の投資フレームワークに統合するなどしてシンプルに捉えるような工夫が必要になります。企業価値計測にインパクト要素を含めることで、三次元の要素を二次元化するということも一つの手法です。

*1 厚生労働省 年金局「スチュワードシップ責任を果たすための活動及びESGやインパクトを考慮した投資について」

https://www.mhlw.go.jp/content/12501000/001337872.pdf

*2 第5期中期計画関連資料

https://www.gpif.go.jp/info/other/5thmidtermplan.html

*3 インパクトをもたらす投資に関する法的枠組み

https://www.unpri.org/download?ac=15845

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