2025/5/8

アメリカの関税政策の影響と投資への示唆

2025年3月、アメリカが発表した新たな関税政策を契機に、世界の金融市場では警戒感が強まりました。日本の状況を見ると、2024年度(2023年4月~2024年3月)の対米輸出額は21.6兆円で全体の20%を占め、中国及び香港向けの24.5兆円(22%)に次ぐ第2の輸出先となっています(*1)。

トランプ政権による関税強化は、短期的には関税率の変動が焦点となりますが、長期的にはドルの基軸通貨としての地位にも影響を及ぼす可能性があり、注意深く見極める必要があります。こうしたマクロ要因は日々変化し、米国の政策に大きく左右されるため、不確実性が高く、単純な予測は困難です。

このような環境下での銘柄選定では、産業ごとの動向を丁寧に把握することが重要です。企業経営者の発言からは、主に以下の2つの方向性が浮かび上がっています。

第一に、アメリカ国内への生産シフトです。これは単なる関税対応にとどまらず、保護主義の高まりを受けて、現地生産体制の見直しが求められている動きです。こうした傾向は、2008年の金融危機以降、トランプ政権下の貿易摩擦やコロナ禍による供給網の混乱を経て、グローバルサプライチェーンの再構築や各エリアで自律分散できるビジネスを構築するという流れにつながっています。今回の政策は、この動きをさらに加速させる要因となるでしょう。

人件費の高い米国での製造では、自動化の重要性が増しています。NVIDIAが提唱する「フィジカルAI」――AIを組み込んだ製造プロセスの高度化――もこの流れと一致し、今後の注目分野となる可能性があります。今後は、アメリカでの製造能力の拡大と同時に、他地域での生産過剰も進行する可能性があり、企業の収益構造に変化をもたらすでしょう。設備投資関連では、ロボットや半導体製造装置などへの需要増が期待されます。

第二に、アメリカ依存の販売構造の見直しです。企業は輸出先の多様化を進め、アメリカ以外の市場開拓に注力するようになっています。日本企業が国内販売を再強化する可能性があることに加え、TikTokによる通販事業の開始が報じられるなど、中国企業のさらなる進出も予想されます。また、ステランティスはジープやプジョーなどの主力ブランドの日本での販売価格の値下げを発表しています(*2) 。資材面でも変化が見られ、一部輸入業者は、例えばカナダ産木材を15~20%安く調達できる可能性に言及しています。これはグローバルな需給のずれが広がっていることを示唆しています。

日本企業は価格競争の激化と、仕入れ価格低下の恩恵とで明暗が分かれる展開も想定されます。特に消費財分野では価格下落圧力が強まる一方、ブランド力のある企業は仕入れコスト低下のメリットを享受できる可能性があります。物価上昇の鈍化が金利上昇期待を後退させる場合には、銀行株の収益改善期待が弱まることも視野に入れる必要があります。

このような環境下では、個別企業の業態やポジショニングだけでなく、新たな経済状況に対する適応力、そして経営者の課題認識の深さにも注目すべきです。不透明な時代においては、柔軟かつ戦略的に変化へ対応できる企業こそが評価される局面が続くと考えられます。

*1: https://www.customs.go.jp/toukei/shinbun/trade-st/2024/2024_215.xml

*2: https://www.stellantis.jp/news/20250501_stellantis_product_release

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