2026/8/12

コーポレートガバナンス・コード改訂を受けたサクセッションプランについての考察

コーポレートガバナンス・コード改訂の要点

2026年7月、コーポレートガバナンス・コードが改訂されました。5年ぶりとなる本改訂の狙いは「コードの実質化」にあります。これまでは改訂のたびに細かなルールが積み上がり、企業がチェックリストのように扱いがちでした。今回はその細目を大きく削り、守るべき規範を83から30へと絞り込んで、各社が自社に必要なガバナンスを自ら考える形へと改めています。あわせて、不祥事防止中心の「守り」から成長を後押しする「攻めのガバナンス」へと舵を切り、その象徴として、積み上がった現預金などを研究開発や人的資本に活かせているかを、取締役会が自ら検証し開示・説明することが求められています。

カディラが注目する「CEOサクセッションプラン」

カディラが今回の改訂で注目している点に、CEOのサクセッションについての項目が従来の「補充原則」から「原則」へと格上げされ、これまで以上に各社の対応が問われるようになったことが挙げられます。

経営トップを誰が務めるか、またどのような選定方法で後継者が選ばれるのか、ということは企業の方向性や従業員のモチベーション、働き方に影響を与える重要な要素です。また、スムーズな引継ぎのためには、計画立てた人材育成策が整備されていることが望ましいと考えられます。

この点に関連し、カディラでは上場企業に「サクセッションプラン」についてアンケートを取りました。2026年4~6月に実施したIRミーティング後に行ったアンケートであり、回答企業26社と限定的なサンプルではありますが、実際に対話を行った企業からの回答として、日本の上場企業におけるガバナンスの実態を示す参考値として見ることができる内容です。

調査結果①:取締役会レベルでの議論は定着しつつある

「過去1年程度で、取締役会等でCEOを含む主要経営幹部の後継者計画を議論しましたか」という問いへの回答は、「はい」が73%、「いいえ」が15%、残る12%は非開示・回答留保でした。

7割超が取締役会の議題として後継者計画を扱っており、形式面での定着は一定程度進んでいると受け止めています。「いいえ」と回答された企業でも、規模や成長ステージ上まだ体系化前という趣旨のコメントが見られ、否定的というより「これから」という段階が読み取れます。

なお、TOPIX100に採用されている企業が今回の回答の35%を占めていますが、その全社が「はい」と回答しています。参考までに、東証が2022年にTOPIX100採用企業に対して行った調査(*1)においては、「後継者計画の策定・監督」を任意の指名・報酬委員会の役割として挙げた企業が57%でした。質問内容が異なるので単純比較はできませんが、過去4年で取締役の議論においてサクセッションプランの存在感が高まっているという様子がうかがえます。

調査結果②:議論は「候補選定・育成」に集中、「開示」は途上

上記の質問に続き、議論の中身を質問したところ、「後継者候補のリストアップ・評価」が58%、「育成方針の確認」が54%と半数以上が議論を行っていることが確認できました(複数回答可)。

一方で、「不測の事態における暫定後継者の確認」は23%、「後継者計画の開示方針の検討」は12%と回答されており、踏み込んだ議論を行っている企業はまだ少数のようです。

多くの企業で「誰を、どう育てるか」という内部プロセスは動き出しているものの、それを株主・市場にどう説明するかという開示設計については今後の課題であると見て取れます。

なお、この「開示の巧拙」は株主価値と無関係ではありません。米国の実証研究(*2)は、後継者計画について踏み込んだ開示を行った企業の株価が、開示前後で有意にプラスの反応を示したことが報告されています。ただし効果は一律ではなく、規模の大きい・事業が複雑・経営が安定した企業ほど開示のプラス効果が大きいとされ、自社の性質に合った開示設計が重要であることも示唆されています。

調査結果③:育成プログラムは「社内」が主軸、選抜は「経営陣指名」が主流

次世代トップの選抜型育成プログラムの整備状況についての質問においては、「社内教育プログラムを設けている」が54%で最多、「経営トップが直接指導している」が38%、「社外プログラムへの参加」も38%と続き、「設けていない」は19%でした。社内育成を土台にしつつ、トップ自らの関与と外部知見の取り込みを組み合わせる企業が一定数存在します。

選抜方法は、「経営陣による指名」が58%と過半を占め、次いで「経営陣以外からの推薦」が31%、「事前に定められた基準による選抜」が27%、「自薦」は4%でした(複数回答可)。裏を返せば、客観的・明文化された基準で選抜している企業は3割弱にとどまります。選抜プロセスの透明性・仕組み化は、育成そのものとならぶ、発展途上の領域と言えそうです。

まとめ

以上を総合すると、サクセッションプランについて「取締役会の議題化」という第一段階を越えている企業が7割を超える状況であり、全体としては経営の持続性についての意識を持っていることが確認されます。

一方で、3割程度の企業においては、これから明文化・体系化に取り組む段階にあると見受けられます。サクセッションプランを整備することは、不測の事態における業務継続性を担保することに加え、人選基準が企業の方向性を指し示し、幹部人材のモチベーションにつながることから、長期の経営パフォーマンスにも影響を与える重要な要素だと考えられます。

この点は、学術的な実証研究からも裏づけられます。後継候補を計画的に育成したうえで社内昇格させた企業は、交代後の業績・長期株価リターンが高く、業績・株価の変動も小さいことが示されています(*3)。また、後継者計画が整備・開示されている企業では、業績不振に伴うCEO交代の発表時でも市場のネガティブな反応が和らぐとの分析があり、この効果はガバナンスが強い企業でより顕著とされています(*4)。計画的な準備の有無は、有事の動揺と平時の持続的成長の双方に影響しうる、ということを示唆する内容です。

これらの点については、投資家からの問いかけが重要な気づきを提供できる分野であるため、今後も積極的に対話を重ねてまいりたいと考えております。

【出所】

*1 「コーポレート・ガバナンス白書 2025」

  https://www.jpx.co.jp/equities/listing/cg/tvdivq0000008jb0-att/um3qrc000001isbf.pdf

*2 McConnell, J. J. & Qi, Q. (2022) “Does CEO Succession Planning (Disclosure) Create Shareholder Value?” Journal of Financial and Quantitative Analysis.

*3 Tao, R. & Zhao, H. (2019) “‘Passing the Baton’: The Effects of CEO Succession Planning on Firm Performance and Volatility,” Corporate Governance: An International Review.

*4 Bae, J., Joo, J. H. & Yu, J. (2023) “CEO Succession Planning and Market Reactions to CEO Turnover Announcements,” Finance Research Letters.

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