
日本のコーポレートガバナンス改革は2015年の開始から10年余りが経過し、今年、3回目となるコーポレートガバナンス・コードの改訂が行われました。注目したいのは、改革の主眼が変わってきたことです。従来は「非効率なガバナンスの是正による割安な株価の修正」に重心がありましたが、今年からは「成長志向型ガバナンスの実践による評価水準の引き上げ」へと軸足が移りつつあります。
象徴的な文書が二つあります。ひとつは7月21日、改訂CGコードと一体で経済産業省が公表した「成長投資ガイダンス」(*1)です。売上高に対する設備投資・研究開発費・人件費の合計比率は、日本が17.7%(2023年)に対し米国29.4%、欧州27.2%。一方で株主還元額は2013年から2024年の12年間で日本が3.5倍(米国1.1倍、欧州1.5倍)と、成長投資を抑えながら還元を増やしてきた姿が浮かびます。ガイダンスはこの状況を、資本コストを上回る利益を生んでいるかという基準で切り分けます。利益が資本コストに届かない事業に資本が滞留していることを問題視し、ベストオーナーへの譲渡を含む事業ポートフォリオの再構築を求める、という構成です。
もうひとつは7月29日、自民党の成長志向型コーポレートガバナンスPTが政府に申し入れた「企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言」(*2)です。同じ課題認識に立ち、経営力の向上・制度のイコールフッティング・法執行の強化を三位一体で進めるべきとしています。株主提案権や臨時株主総会招集請求権の要件見直しが報じられましたが、提言はアクティビズムが経営に規律をもたらす積極的な側面を明確に認めた上で、法令違反や開示義務の潜脱が疑われる「濫用的アクティビズム」を建設的な対話と区別する立場を採っています。
市場側も同じ方向を向いています。TOPIXのPBR1倍割れ企業は、2022年末に時価総額ウエイトで38%(社数比率54%)を占めていましたが、2025年末には14%(同36%)まで縮小しました。10年の改革の蓄積に、2023年3月の東証要請「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応について」が加わり、世界的な株高と円安も重なった結果でしょう。
アクティビストの成果も転機を迎えています。岡三証券の集計では、アクティビストが新規に取得した銘柄(報告時の時価総額300億円以上)の取得報告後240営業日後のTOPIX相対リターンは、2023年+5.0%、2024年+9.7%と好調でしたが、2025年は+0.7%、2026年は60営業日時点で-0.8%となっています。ただし2021年は+2.2%、2022年はほぼ横ばいで、むしろ2023〜24年が例外的だったとも読めます。全体の割安感が解消したこと、2025年のアクティビスト投資件数が174件と過去最高(米国に次ぐ世界2位)に達し提案が混雑していることが、背景にあると考えています。
では割安修正の次はどこか。PBR3倍超の企業数比率(2021〜23年平均)は日本15%に対し米国31%、欧州26%と、なお開きがあります。ただしTOPIXのPBR3倍超は時価総額ウエイトでは29%に達しており、高い評価を得ている企業は既に相応の規模を占めます。足りないのは水準ではなく裾野です。
制度と市場の双方が「プレミアムを正当化できる企業を増やす」局面に入ったのであれば、私たちが担うべきは、資本コストを上回る利益をどれだけ長く生み続けられるのか、その源泉を企業とともに検証する対話です。事業ポートフォリオの見直しには、雇用の維持、税制、独占禁止法といった現実的な制約が伴います。その制約を踏まえたうえで、どこに資本を振り向けるのか。この問いを丁寧に重ねていくことが、当社の付加価値だと考えています。
*1 成長投資ガイダンス
https://www.meti.go.jp/press/2026/07/20260721001.html
*2 企業価値を伸ばし続けるガバナンス改革への提言
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