2026/4/14

イラン軍事衝突が株式市場に与える影響

日本における原油とLNGの調達状況

2026年2月28日の米国・イスラエルによるイランへの大規模軍事作戦を受け、ホルムズ海峡が事実上の封鎖状態となりました。日本が輸入する原油の約9割(*1)が同海峡を通過していることから、原油調達リスクが急上昇することとなりました。日本はエネルギー自給率が15%程度(*2)にとどまり、多くを輸入に頼っていることから、経済・社会に深刻な影響を及ぼすことが懸念されます。日本の石油の備蓄量は2026 年3月末時点で237日分の国内需要に相当する量(*3)があると見られていますが、現状が長期化すれば備蓄の枯渇も懸念されます。

一方でLNGは調達構造が異なり、日本のLNG輸入の約4割はオーストラリアから調達されており、中東依存度は1割弱(*1)と、原油ほど高くありません。ただしイランのドローン攻撃によりカタールのLNG生産能力が大きく低下し復旧に数年単位の時間を要することから、世界のLNG需給を逼迫させることが予想されます。

エネルギー以外にも広がる調達リスク

今回の事態が浮き彫りにしたのは、エネルギーにとどまらない資材・素材調達リスクという深刻な問題です。真っ先に懸念されるのは、原油由来のナフサの不足です。化学製品の基礎原料であるナフサの不足は、ほぼ全ての生産活動に影響を与えると言えます。

日頃あまり目立たない資材においても調達懸念が高まっています。その典型がヘリウムです。ヘリウムはLNG精製の副産物として生産され、カタールは世界供給量の約36%を担っています(*4)。ヘリウムは半導体の製造工程における冷却用のガスとして不可欠な存在でありながら、原油ほど目立たず、レアアースのように外交カードに使われないことから、調達リスクについて専門領域の人以外があまり注目してこなかった素材です。また、エッチング工程に使われる臭素も、ヘリウムと同様に中東依存度が高く、その70%以上が中東で生産されており(*5)、供給地偏在による調達リスクが懸念されます。ヘリウムや臭素はその一例に過ぎず、今後は同様の「見えにくい調達リスク」が他の工程ガス・特殊材料においても次々と顕在化する可能性があります。

こうしたリスクに対して、すでに半導体産業などの現場レベルにおいては、安定調達のためにヘリウムなどの素材について、リサイクル活動が推進されています。過去に積極的にリサイクルに取り組んできた企業は、足元の有事においても相対的に調達力を維持していることが推測されます。投資家として企業を評価する際には、リサイクルを単に環境保全の取り組みとしてのみ捉えるのではなく、安定調達を通じて競争優位性につながる可能性があるという視点を持つことが重要です。

サプライチェーンリスクの確認

エネルギー調達難の影響は業種によって大きく異なります。石油化学・素材、輸送、電力多消費型の鉄鋼・アルミ・セメントなどは、原燃料コストの上昇が直接的に収益を圧迫します。一方、製造業全般においても、エネルギーコストの上昇は製造原価に波及し、価格転嫁が困難な業種では利益率の悪化が避けられません。

また、製造プロセスが長く複雑な産業においては、こうした素材調達リスクが製造プロセスの各工程に潜在しており、影響の全体像が把握しにくい点が懸念されます。半導体はその典型であり、自動車・航空機・機械・ロボットなども同様の構造を持ちます。これらの産業は、原材料調達から加工・組み立てを経て、品質検証までのリードタイムが数ヶ月〜1年超に及び、工程の途中で特定素材の供給が途絶えると採算を度外視した代替品調達を余儀なくされ、最悪の場合、生産停止を余儀なくされるリスクもあります。

調達リスク上昇局面での投資選好アイデア

エネルギー調達の課題は、企業の調達・投資行動に変化を与えるでしょう。まず考えられるのは、省エネルギー化や再生可能エネルギーの活用を積極的に検討する企業が増えるというシナリオです。日本では、2026年4月からGX-ETSとして排出量取引制度が本格稼働します。また、時価総額3兆円以上の大企業は4月から始まる新年度において、ISSB(*6)を日本にローカライズしたSSBJ(*7)の基準での報告が義務化されるなど、サステナビリティ対応の観点からも、温室効果ガス排出を抑制する動機が働いています。その経済合理性も加わることで、省エネ・再エネ投資が前向きに検討される可能性が高まります。

また、企業分析においてはサプライチェーンの長さや、特定素材・地域への調達依存度について再検証し、リスクシナリオを含めて投資判断を検討する必要が出てきます。逆に、サービス業などの非製造業や、製造業でも必需性が高く優先的に資材を割り当てられる産業(医療関係など)については、相対的な業績安心感があるため、投資家の関心が高まる可能性があると考えられます。

*1 https://www.enecho.meti.go.jp/about/energytrends/202506/html/s-1-3.html

*2 https://www.meti.go.jp/press/2024/11/20241122001/20241122001.html

*3 https://www.enecho.meti.go.jp/statistics/petroleum_and_lpgas/pl001/

*4 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2025/mcs2025-helium.pdf

*5 https://pubs.usgs.gov/periodicals/mcs2024/mcs2024-bromine.pdf

*6 International Sustainability Standards Board:国際サステナビリティ基準審議会

*7 Sustainability Standards Board of Japan:サステナビリティ基準委員会

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