
日本の長期金利が上昇しています。2025年1月の金利を1年前と比較すると、10年国債利回りは1.25%から2.25%へと1.00%ポイント上昇しています。これは国内市場での利回りが1年前と比べて大幅に上昇したことを示しています。超長期債ではさらに上昇が顕著で、40年国債利回りは2.67%から一時4.23%まで急騰しました。月末にかけてやや落ち着きを見せて3.90%となりましたが、1年前比で1.23%ポイントの上昇となりました。
一方で、政策金利については、日本銀行が慎重に利上げを進めていることから過去1年で0.50%から0.75%へと、0.25%ポイントの上昇にとどまっており、長短金利差の拡大が顕著に進んでいます。
この背景としては、財政拡張的な政策運営が中長期的な国債需給やインフレ期待に影響を与えている点が意識されていると考えられます。高市総理は、これまでの内閣と比較して、より積極的な財政政策を志向する姿勢を示しています。特に、1月に食品にかかる消費税を2年間ゼロとする方針を発表したことを受け、その後、長期金利が急上昇する場面も見られました。さらに、その後に米欧の金利も上昇したことから、日本の金利動向がグローバルな金利上昇の一因となったとの見方も広がっています。
日本の国家財政を見ると、ストックベースでは負債が極めて大きい点が目につきます。財務省の報告によると(*1)日本の債務残高はGDP比で約230%と非常に高く、主要先進国の中で突出した水準です。しかし、2020年の258%をピークにその後は毎年改善が進んでいることや、日本は対外純資産を多く保有しているため、純債務残高でみるとGDP比130%と落ち着いた水準になり、即時に財政が行き詰まる状況ではありません。また、フローベースで見ると、財政収支赤字のGDP比は2024年1.4%、2025年0.6%であり、欧米諸国が2~8%程度であることと比較すると良い水準になっています。このため、格付け機関も総じて日本に対してA~AAAの投資適格評価を維持しており、至急の財政危機を示すような評価は限定的と言えます。
目先、日本の国家財政が危機に瀕するという可能性は低いとしても、中長期的に財政悪化が続く可能性は否定できません。国民の内閣支持率を見ると、財政積極派とされる高市内閣の支持率は就任から約3か月間70〜80%台と極めて高い水準を維持しており、前任の内閣が財政健全化方針を掲げて支持率が低位かだったことと対照的です。政治的には積極財政路線を継続する可能性が高いため、このことが足元の長期金利を上昇させている要因と考えられます。
金利変化は株式投資に重要な影響を及ぼします。多くの投資家は、株式のリターンを考える際に、長期金利を基準に、株式市場に対する期待値やリスクを加味して、妥当な水準を検討します。市場全体の動向を把握するのに分かりやすい数値は、TOPIXの益回り(PER の逆数)と 10 年国債の利回りの差であるイールドスプレッドで、この数値は過去 10 年間、概ね 5〜7%の範囲で推移してきました。
しかし、2022年以降、イールドスプレッドは7%程度から断続的な低下が続き、足元は3%台へと大幅に水準が下がりました。この間、TOPIXの益回りは7%台から5%台半ばへと低下(PER が14倍台から18倍台に上昇)し、かつ10 年国債利回りが0.2%程度から2%台半ばへと上昇したため、それに挟まれる形でイールドスプレッドが縮小したことになります。
これは、株式に対するリスクプレミアムの低下、あるいは中長期的な成長期待の上昇、もしくはその両方が同時に進行していることを示唆します。背景としては、経済が長期デフレからの脱却を進めていることや、企業の収益改善・コーポレートガバナンスの強化が進んでいることなどが考えられます。
イールドスプレッドが縮小しているということは、株式の割安度が低下しているという見方にもつながります。ただし、米国市場ではイールドスプレッドがほぼゼロ水準まで縮小しているとの分析例もあり、それと比較すると、依然としてプラス水準を維持している日本市場には、まだ割安解消の余地があるとの見方もできます。
カディラでは、企業価値を算定する際に割引キャッシュフローモデル(DCF)をベースに、サステナビリティ視点での修正を加えた独自モデルを使用しています。計算に適用する割引率は、「長期金利+株式リスクプレミアム+個別企業要因」として設定しています。このうち、株式リスクプレミアムを設定する際はイールドスプレッド(TOPIXの益回りと10年国債利回りの差)を参考指標としています。
イールドスプレッドは2022年以降、断続的に低下し、2025年1月末には3%台半ばへと大きく低下しました。こうした市場環境の構造的な変化が確認された場合、カディラでは適用する割引率について修正を加えます。運用担当者が割引率の株式リスクプレミアム部分について変更案を提起し、投資政策委員会の役割を兼ねた取締役会での議論を経て修正を行います。割引率前提の頻繁な変更によって安定運用が阻害されないように注意しながら、市場変化に適応した企業価値評価を実現できる体制を構築しています。
*1「我が国の財政事情」
https://www.mof.go.jp/policy/budget/budger_workflow/budget/fy2026/seifuan2026/04.pdf
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