2026/1/19

ガバナンス再改定と経営資源配分の転換 ― 日本株市場に広がる成長投資の射程 

2025年の振り返り

2025年の日本株市場は、総じて力強い上昇局面となりました。TOPIX(配当込み)は年間で25.5%上昇し、2023年の+28.3%、2024年の+20.5%に続き、3年連続で20%を超える高いリターンを記録しました。特に割安株が市場全体を牽引する展開となり、TOPIXバリュー指数は30.4%上昇と、TOPIXグロース指数の+14.5%を大きく上回りました。

年前半の市場では、中国企業によるAI基盤開発の進展が注目を集め、米国のAIプラットフォーマーの先行きに対する警戒感が高まりました。加えて、米国の関税政策を巡る不透明感が意識され、世界貿易の減速懸念が日本株にも波及しました。トランプ大統領が関税率を発表した直後には、グローバル展開する製造業を中心に需給や利益見通しに対する慎重な見方が広がり、株価は一時的に大きく下落しました。

しかし年中盤以降、米国との関税交渉が進展するにつれて市場の警戒感は徐々に後退し、株価は反転上昇に転じました。AI分野についても、年初の懸念とは対照的に各社の開発競争が加速し、世界的にAI関連テーマへの関心が再び高まりました。その結果、関連企業の株価は大幅な上昇を見せました。

日本国内の要因としては、7月の参議院選挙を巡る政局動向が市場の注目を集めました。その後の政権運営や政策スタンスを巡り、財政拡張、安全保障、国内投資重視といった分野への期待が高まる場面も見られました。また、自社株買いや増配、事業再編など、株主価値を意識した企業行動が年間を通じて活発化し、需給面から日本株市場を下支えする重要な要因となりました。こうした状況下で、年央に為替が円高となる局面でも株価が底堅く推移するなど、市場が為替変動に左右されにくい性質になってきたように見られます。

コーポレートガバナンス・コードの再改定

2026年の日本株動向を占う上での重要な注目点の一つが、約5年ぶりに予定されているコーポレートガバナンス・コードの改定です。今回で3回目となる改定における最大の焦点は、いわゆる「キャッシュホーディング(Cash hoarding:過剰な現預金保有)」問題への対応です。企業が保有する現預金の水準や、その活用方針について説明責任を明確化する方向で議論が進むと見られています。こうした問題意識は、金融庁が2025年6月に公表した「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」(*1)においても、今後の議論の方向性として示されています。

日本企業のバランスシートは、1990年代後半以降、長期にわたって改善が続いてきました。法人企業統計によると、1996年時点では、日本企業(金融保険業を除く全規模)の現預金は130兆円で、総資産に占める比率は10%を下回る水準でしたが、2024年には約2.3倍の301兆円に増加し、総資産に占める比率も13%に上昇しました。一方、借入金は同期間で559兆円から603兆円へと限定的な増加にとどまり、総資産に占める比率は43%から28%へと大きく低下しています。このように、日本企業は約20年にわたり成長投資よりもバランスシートの健全化を優先してきましたが、その結果として、設備投資やM&A、人的投資といった成長志向の経営資源配分が抑制されてきたという側面も否定できません。

2015年に制定されたコーポレートガバナンス・コードは、株主権利の尊重、ステークホルダーとの協働、情報開示の充実、取締役会の実効性向上などを上場企業に求め、日本におけるガバナンス改革の中核を担ってきました。その後、2018年、2021年の改定を経て内容は段階的に高度化しています。さらに2023年には、東京証券取引所が「資本コストや株価を意識した経営の実現に向けた対応」を要請したことで、企業に対する市場からのプレッシャーが一段と強まり、資本コストやROEに関する開示・意識は急速に高まりました。

このように、過去10年以上をかけてガバナンス改革と資本効率重視の土台が形成されてきた中で、今回の3回目の改定では、現預金を含むバランスシートの活用方針そのものに踏み込む内容が盛り込まれる見通しです。段階的に対応の高度化が進められてきた結果、企業側にも一定の準備が整っていると考えられることから、今回の改定は形式的な要請にとどまらず、実効性を伴う施策となる可能性が高いと見られます。

経営資源の配分先

日本企業の投資意欲が高まった場合、経営資源はどの分野に配分されていくのでしょうか。その方向性は、足元の事業環境の変化と政策面からの後押しの双方を踏まえることで、比較的明確に読み取ることができます。

まず、企業を取り巻く事業環境の変化です。コロナ禍や米中貿易摩擦を契機として、グローバルに最適化されてきたサプライチェーンの脆弱性が顕在化しました。その結果、調達や生産の分散化、国内回帰を検討する動きが広がり、日本国内での生産能力を強化する投資が徐々に増え始めています。また、円安を背景とした訪日観光客の増加などを受け、サービス産業を中心に需要が拡大している点も重要な変化です。

一方で、日本経済が抱える構造的な課題として、人口減少に伴う慢性的な人手不足が挙げられます。需要が拡大しても供給制約によって成長が阻害されかねない状況にあり、企業にとって設備投資を通じた生産性向上は、もはや「選択肢」ではなく「対応が求められる課題」となりつつあります。さらに、AIをはじめとするデジタル技術の進化により、これまで人手に依存せざるを得なかった領域においても自動化・高度化の余地が広がっており、投資対象となる分野は従来以上に拡張しています。

こうした企業行動の変化を後押ししているのが、政府の政策スタンスの転換です。経済安全保障や国内投資、技術的自立を重視する姿勢が明確となり、先端技術や安全保障関連分野への重点投資が政策として打ち出されています。その具体例として、AI・半導体をはじめとする17の戦略分野(*2)が設定されており、税額控除や即時償却といった制度面の支援を通じて、企業の投資判断を後押しする枠組みも整備されています。

さらに、「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」では、企業の経営資源配分のあり方について、より踏み込んだ方向性が示されています。そこでは設備投資にとどまらず、研究開発、地方拠点の整備、スタートアップへの投資、人的資本や知的財産への投資など、多様な成長投資の選択肢が明示されています。総じて見ると、日本企業の投資意欲が高まる局面では、短期的な需要対応としての設備投資と、中長期的な競争力強化を目的とした技術・人材・知的資産への投資が並行して進む構図が想定されます。

以上を踏まえると、投資の観点では、日本において成長志向型の経営資源配分が拡大し、経済構造が転換していく可能性を意識しながら、個別企業のファンダメンタルズを見極めることが重要になります。当戦略では、設備投資拡大のトレンドを成長要因として取り込める企業や、投資を通じて付加価値を高めることができる企業に注目し、ファンダメンタルズ分析に基づいた銘柄選択を行っていく方針です。

*1 「コーポレートガバナンス改革の実質化に向けたアクション・プログラム2025」

https://www.fsa.go.jp/news/r6/singi/20250630-1.html

*2 17の戦略分野:①AI・半導体、②造船、③量子、④合成生物学・バイオ、⑤航空・宇宙、⑥デジタル・サイバーセキュリティ、⑦コンテンツ、⑧フードテック、⑨資源・エネルギー安全保障・GX、⑩防災・国土強靱化、⑪創薬・先端医療、⑫フュージョンエネルギー、⑬マテリアル(重要鉱物・部素材)⑭港湾ロジスティクス、⑮防衛産業、⑯情報通信、⑰海洋

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