2025/12/19

AI時代の新たな脅威:サイバーセキュリティが経営の中核課題へ

サイバーセキュリティ被害

近年、サイバーセキュリティ被害は増加の一途をたどっています。令和7年版『情報通信白書』(*1)によれば、情報通信研究機構(NICT)が観測した世界のサイバー攻撃関連通信は、2024年に6862億パケットとなり、前年比10.7%増となりました。過去10年で約10倍に拡大しており、攻撃量そのものが大幅に増えています。

また、国内企業における一件当たりの被害額は、2024年を含む過去3年間の平均で1.7億円となり、前年比36.8%増を記録しました。数量・金額ともに増加していますが、特に一件当たりの被害額の伸びが顕著で、攻撃の大型化が進んでいることが確認されています。

2025年は、日本企業を標的としたサイバー攻撃がさらに深刻化した一年となりました。大規模ランサムウェア被害が相次ぎ、アサヒグループホールディングスでは約191万件の個人情報流出や物流停止が発生し、事業継続に深刻な影響を及ぼしました。

金融分野でも、証券会社の個人口座が乗っ取られ、不正な株式売買が行われる事案が発生しています。攻撃の巧妙化とIT環境の社会インフラ化が進む中、企業にはこれまで以上にセキュリティガバナンスの強化が求められる一年となりました。

サイバーセキュリティに関する日本の政策と企業ガバナンス

日本のサイバーセキュリティ政策は、過去20年で大きく変化してきました。2000年代までは各省庁や企業が個別に対応する体制で、国家的な戦略性は十分ではありませんでした。しかし、サイバー攻撃の増加を背景に、2014年にサイバーセキュリティ基本法が制定され、翌2015年には内閣官房に内閣サイバーセキュリティセンター(NISC)が設置されました。これにより日本は官民横断の国家戦略を持つようになり、重要インフラを含む対策が本格化しました。

その後、重要インフラ14分野でガイドラインが整備されるなど追加施策が進み、自治体・大企業を中心に体制強化が進展しました。しかし2020年代に入ると、ランサムウェアやサプライチェーン攻撃が急増し、従来の「受動的な防御」では対応が困難になりました。この状況を受け、能動的防御についての議論も進められ、2025年5月には能動的サイバー防御関連法案が成立しました。同法案は、サイバー攻撃を未然に防ぐために政府が通信情報の監視・分析を行い、必要に応じて攻撃元に対して無害化措置を講じることを可能にするものです。

こうした政府施策もあり、ITU発行の「Global Cybersecurity Index 2024」(2)では日本は総合評価で5段階の最上位に当たるTier 1に位置づけられました。しかし課題は依然として多く残ります。NRIセキュアの調査(3)では、92%の企業がセキュリティ人材の不足を認識していると回答しています。また中小企業のセキュリティ意識も低く、情報処理推進機構による調査(*4)では、中小企業の63%が2024年を含む過去3年間で情報セキュリティ対策に一切投資していないと回答しています。

サプライチェーン上で中小企業が攻撃の入口となり、大企業へ影響が波及するリスクも高まっていることから、日本全体のセキュリティリスクは依然として高い水準にあると考えられます。よって、企業にはサプライチェーン全体を範囲とするセキュリティ基準の構築が求められることになります。経営が主体となって監督機能を強化し、リスク管理力を高度化していくことが重要になるでしょう。

AI進化による新たな脅威

足元、AIの進化によりサイバー攻撃の自動化・高度化が進んでいます。フィッシングメールの大量生成、脆弱性の高速探索、侵入後の動作最適化などが容易になり、攻撃の敷居は大幅に下がっています。さらに、生成AIによる偽情報や偽装音声・動画を用いたソーシャルエンジニアリングも深刻化しており、人間の判断だけでは見抜くことが難しくなっています。

加えて、生成AIによる翻訳精度の向上により、日本語がもはや攻撃者にとっての“参入障壁”ではなくなりつつあります。従来は特殊な文法・表記体系が外国人攻撃者にとって制約となっていましたが、AI翻訳により自然な日本語メールや偽装文書の作成が容易になり、日本企業や個人を狙ったフィッシングや詐欺の増加要因となっています。

こうした環境変化の中で、セキュリティはもはやIT部門単独の課題ではなく、経営そのものに関わるリスク管理の中核テーマとなりました。企業には自社のみならず、取引先を含めたサプライチェーン全体でのセキュリティガバナンス強化が求められます。

カディラとしても、サイバーセキュリティを企業価値の基盤をなす重要テーマと位置づけ、今後も企業との対話を通じて、持続的なセキュリティ体制の強化に働きかけていく考えです。

*1 令和7年版 情報通信白書 

https://www.soumu.go.jp/johotsusintokei/whitepaper/ja/r07/pdf/00zentai.pdf

*2 https://www.itu.int/en/ITU-D/Cybersecurity/Documents/GCIv5/2401416_1b_Global-Cybersecurity-Index-E.pdf

*3 https://www.meti.go.jp/press/2025/05/20250514002/20250514002-2.pdf

*4 https://www.ipa.go.jp/security/reports/sme/nl10bi000000fbvc-att/sme-chousa-report2024r1.pdf

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