
今月は北洋銀行との対話事例をご紹介します。また2026年8月末から9月初めにかけての一週間、道東から札幌まで北海道のGX(グリーントランスフォーメーション)の現場を視察してまいりましたので、併せてご報告いたします。
北洋銀行は北海道を基盤とする道内最大の地方銀行です。1997年の北海道拓殖銀行の破綻に際し、当時は道内二番手の地銀であった同行が翌年11月に道内営業を引き継ぎ、現在にいたります。現経営陣を見ると、2024年4月に就任した津山博恒頭取は1991年に拓銀へ入行し、1998年11月に北洋銀行へ移りました。2026年6月より専務取締役(CSO兼CFO)を務める米田和志氏も1989年拓銀入行で、同じく1998年11月に北洋銀行へ移っています。勤め先の破綻という経験を経てなお道内に残り、地域の金融を支え続けてきた人たちが、いま経営の中核を担っています。津山頭取のもとでは新人事制度「ポラリス」の導入をはじめとする経営改革が進んでいます。また米田専務が東京へ頻繁に足を運び投資家と直接対話するなど、IR活動にも積極的です。
2026年度から始まった中期経営計画「Make the HOKKAIDO Way 1st stage」のビジョンは「北海道の魅力度・幸福度をともに日本一へ」。北海道が魅力度調査では首位にありながら幸福度では30〜40位台にとどまるという自己認識から、道民一人あたりGDPなどのインパクト指標を10年で1.3倍に引き上げる目標を置いています。地域金融機関が発展するための前提条件である「地域の活性化」そのものを経営目標に掲げている点は同行のユニークさであり、その戦略を理解する起点になります。地域戦略を担う組織として「北海道成長事業本部」と「まちづくり推進室」が新設されました。
財務面でも、同行は好調な局面にあります。貸出金平残は8.2兆円、預金平残は10.9兆円と道内で圧倒的な基盤を持ち、道内貸出シェア41.4%・預金シェア40.0%を目標に掲げています。2026年3月期の当期純利益は前期比24.2%増の256億円となりました。金利上昇が追い風となるなか、新人事制度の導入をはじめ中計期間中の成長投資は3年累計で62億円と先行させる予定です。それを吸収してなお当期純利益を2028年度に500億円程度へ引き上げ、連結ROEを6.3%程度から11%程度へ、コアOHRを60%台から50%程度へ改善する計画です。前向きな投資を続けながら資本効率を高められる局面にあることが、地域戦略に経営資源を振り向けられる背景にあります。
地域間格差の拡大と地方の過疎化は日本の大きな社会課題です。カディラでは、製造業による地方への投資がその解決の糸口になると考え、動向に注目しています。2024年7月にはTSMCの進出による変化を確認するため九州を視察しました。熊本では半導体産業の集積が加速し、周辺の地価が大きく上昇するなど、地域経済と社会に大きな影響が生じています。
同じ構図が、北海道にも生まれつつあります。ラピダスによる経済波及効果は2023年からの14年で最大18.8兆円と試算され、これは名目道内総生産19.7兆円に匹敵する規模です。さらに北海道は、国内でも際立った再生可能エネルギーのポテンシャルを併せ持ちます。この二つの成長要素が地域に根づき、持続的な資金の流れとして定着するかどうかは、それを媒介する金融機関の構想力に大きく依存します。北洋銀行との対話は、この問題意識から始まりました。
カディラでは北洋銀行の経営陣と継続的に対話を行っています。重点を置いているのは、同行が目指す地域活性化を通じた発展シナリオについて、現地での一次情報も収集しながら、その対話の相手となることです。特に次の三点を注視しています。
第一に、GXと自然環境の調和です。同行はGX関連融資を2031年3月までに累計約6,500億円へ積み上げる計画です。カディラは、GXと生物多様性の両立が理念ではなく一件ごとの立地判断に帰着することを現地で確認しており、その上で、残高目標が立地判断の緩みにつながらないかと問題提起しました。これに対し同行は、地域住民や自治体の理解が得られない案件には投融資を行わない方針を明確にしています。また、環境貢献と経済性の両立についても議論し、同行から現状の課題認識が共有されました。例えば、FIT終了後に熱や水蒸気の売り先を持たないバイオマスの自立が課題であること、北海道をデータセンター等の実装の場とする働きかけを進める一方で、高コストな再エネ電力を最終需要家が受容できるかという論点が残ること、などです。重要なのは案件数や融資残高の積み上げではなく、生み出したエネルギーを補助金に頼らず買う需要家と、発酵後の消化液のような副産物を引き取る先の双方を、事業の設計段階で確保できているかどうかです。同行がこの視点で案件を見極められるかが、GX関連融資の質を左右します。
第二に、サステナブルファイナンスにおける「S(ソーシャル)」の位置づけです。同行は累計実行額を2025年度見込みの0.9兆円から2030年度に2.0兆円へ引き上げる計画です。北海道は製造業が少なくサプライチェーンの頂点が限られるという地域特性を踏まえ、同行は環境関連のファイナンスのみならず、社会課題解決全般を視野に入れたソーシャルへの取り組みが重要になるとの認識を示しています。この領域の「本丸」と位置づける経営支援ファイナンスは、顧客自身にSDGs上の目標を設定させ解決策を共に設計する枠組みで、行員のヒアリング能力が成否を分けます。ソーシャル分野は環境に比べて成果が見えにくい領域であり、KPIをどう設定し、その成果をどう説明するかに工夫が求められます。カディラはこれまで多くの企業とインパクト指標について議論してきた経験があり、そこで得た方法論をもとに見解を共有しました。
第三に、ラピダスで注目が集まる半導体分野です。北洋銀行の取り組みで興味深いのは、サプライチェーン参入支援や工業団地のマッチングなど、地銀の強みを活かして主体的に「結節点」の役割を担っていることです。半導体工場はプロジェクト規模が兆円単位で技術的な難易度も高く、主要な貸手やアレンジャーはメガバンクなどに任せ、同行は地域の企業や自治体に近い立場でしかできない役割に注力する姿勢を見せています。その上で、半導体関連融資として2031年3月までに累計約1,650億円を計画しています。対話の中で同行が挙げた懸念は、資金ではなく教育インフラであり、道内の高等教育機関の選択肢が限られ、高年収の海外技術者が家族連れで定着しないという問題意識でした。カディラは、これらの点について同行の施策をフォローしたいと考えています。
今後も、これらの論点が残高のみならず収益性と成果指標として説明されるかを確認しながら、対話を継続してまいります。
北海道と札幌市は「GX金融・資産運用特区」の指定を受け、道内の再生可能エネルギーのポテンシャルを活かしたGX産業の集積と、資産運用会社をはじめとする金融機能の集積を、両輪で進めています。なかでも札幌市は東京の金融コミュニティへ積極的に働きかけており、カディラもかねてより同市の取り組みに関わってきました。昨年、東京で開催された同市の金融企業誘致セミナーでは、カディラも秋元札幌市長らとともにパネルディスカッションに登壇しています。今年の夏には同市がGX分野への投資を検討する運用会社向けに開催した視察ツアーに参加しました。十勝・釧路地域のGX関連施設を巡るとともに、前後の日程で、ツアーの行程に含まれない現場も訪ねています。
視察を通じて共通したのは、FITの期間が終わった後に事業が自立できるかという論点でした。売電単価が大きく下がる局面で収支を保てるかどうかが、北海道のGXの現実的な課題になっています。そして自立の可否を左右していたのが、まず副産物の処理でした。バイオガス事業では、発酵後に生じる消化液の引き取り先を確保できるかが鍵となります。農地への散布が慣行として根づく地域がある一方、散布先のない地域では水処理費が収支を圧迫します。もう一つの要因は、コスト構造でした。液化バイオメタンは通常のLNGを大きく上回る価格水準にあり、現状は需要家の脱炭素訴求と補助金に支えられています。自立した需要をどう形成するかが課題です。
人材の制約も深刻でした。地熱やCCSの需要が急増する一方で掘削技術者は不足しており、専門学校の求人倍率は10倍を超えています。GXの制約は資金でも技術でもなく人である、というのが現場で得た感触です。
最後に、自然環境との両立です。ラムサール条約湿地に隣接する区域でのメガソーラー開発が停止している現場を見てきました。他方、製造業の拠点に近接しながら自然環境が維持されている湿地もあり、両立できるかどうかは立地ごとの条件によって変わります。
副産物の引き取り先、需要家が受け入れられるコスト、人材、そして自然環境との両立。いずれも、案件を設計する段階で見極めておくべき条件です。北海道のGXが補助金に頼らず自立した産業として根づくかどうかは、こうした条件を一件ずつ見極める地域金融機関の役割に大きくかかっています。カディラは、現地で得たこれらの知見を北洋銀行との対話に活かし、GX関連融資が残高だけでなく質の面でも成果をあげているかを引き続き確認してまいります。
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