
今年はグローバルに選挙が多い年でした。振り返ると世界全体的にポピュリズム的な政策への支持が高まったように感じられます。アメリカにおいても大統領選挙においてトランプ氏が勝利したことを受けて、アメリカの政策が大きく変化することが予想されます。一つの懸念は、景気対策などの短期的な課題が優先され、気候変動対策などの中長期的な課題が政策の優先順位から外れることです。環境保全に関する規則の軟化や政府支援の縮小などの方向に進むと、温暖化対策に逆風が吹く可能性があります。
しかし、政治状況が安定感を欠いたとしても上場企業が気候変動や人権問題などのサステナビリティ対応(課題解決に向けた取り組み及び関連情報の開示)をやめることはないでしょう。サステナビリティ情報については世界的に開示の制度化が進められていることから、上場企業を中心に、制度導入に向けて着実に対応を進めていくことが予想されます。日本においてはサステナビリティ基準委員会(SSBJ:Sustainability Standards Board Japan)が国際的なISSB基準をベースにサステナビリティ開示の制度化を進めています。時価総額3兆円以上の企業は、2027年3月以降の決算においてSSBJ基準で開示し、翌2028年3月以降に第三者保証を付けるというスケジュールで議論が進められています。これを基準に、1年後には時価総額1兆円以上、さらにその翌年は5000億円以上と、徐々に規模の小さい企業に適用が進んでいきます。これらは2025年3月末までに確定される予定です。
さて、このような状況において、投資家としてサステナビリティとリターンの両立を目指すために何が必要でしょうか。第一に言えることは、外部環境の変化に左右されることなく、投資と対話を通じて投資対象企業のサステナビリティ対応を支援していくことが大切です。その上で、今後は従来以上に「サステナビリティ対応の経済合理性」という視点が重要になってくると私たちは考えています。
ここで言う経済合理性とは、サステナビリティ対応が企業財務にプラスに作用するかどうかを意味しています。例えば素材産業に代表されるエネルギー多消費型の産業やコモディティ型の産業では、気候変動対策に多額の資金を投じる必要がある反面、製品差別化による値上げが難しいため、サステナビリティ対応が業績にマイナスに作用しがちです。政府が補助金や規制の強化によって取り組むことのメリット(または、取り組まないことのデメリット)を明確すれば、経済的な不合理は解消されますが、当面は政治主導での不合理解消を期待するのは難しいかもしれません。
一方で、消費財やハイテク機器など、差別化の余地が大きい製品やサービスを提供する企業は、サステナビリティ対応の経済合理性が高いと考えられます。気候変動対策や人的資本投資を通じて、企業ブランドや製品ブランドを高めることができれば、顧客層の拡大や単価の上昇によって業績を拡大させることが可能です。コモディティ型の企業に比較すると、直接的な環境対策に関する費用が比較的少なくて済む企業が多いでしょう。また、これら経済合理性の高い企業はサプライチェーンの川下に多く属するので、取引先に対して顧客の立場からサステナビリティ対応を要請するという役割が期待されます。
よって、政治主導が期待しにくい現状においては、川下に位置する高付加価値企業が先陣を切ってサステナビリティ対応を進め、他の企業に影響を与えるボトムアップ型アプローチの重要性が高まると考えられます。経済全体をより長期的志向にするためには、投資家もこの点を意識してエンゲージメントを行うことが重要になるでしょう。
なお、カディラでは上記のサステナビリティの経済合理性の観点を投資仮説構築の視点に含めることで、投資判断の質を高めていくことを目指しています。また、企業との対話においては、サステナビリティ対応と付加価値の結びつきを議題にすることで、インパクト創出と企業価値向上の両立を後押しする方針です。
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