
当月は、シスメックスについて企業概要とカディラが同社と継続的に行っているエンゲージメント活動をご紹介します。
シスメックスは1968年に、音響機器メーカーの東亞特殊電機(現TOA)から独立する形で設立された、主に臨床検査分野における機器や試薬の開発・製造・販売を行う医療機器メーカーです。兵庫県神戸市に本社を構える同社は、血液検査、尿検査、免疫検査などの診断分野で世界的なリーダーとして知られています。シスメックスの事業は医療の中でも検査の領域に特化しており、その中でもレントゲンなどの体を直接検査する「生体検査」ではなく、体から採取した血液や尿などを検査する「検体検査」という分野を専門としています。シスメックスが製造・販売しているのは病院で採取した血液や尿を検査するための機器と、機器を使って検査する際に使われる診断薬であり、これらを一体提供することによってユーザーである病院に対して安心感を提供しています。
シスメックスの主力商品は血液検査用のヘマトロジー(血球計数装置)であり、同社はこの分野で世界トップのシェアを誇り、高い精度と信頼性で医療現場から評価を受けています。
ヘマトロジーは病気の早期発見、治療方針の決定などで、医療行為の基本的な部分を支える重要な役割を果たしています。すでに確立された基本的な検査方法であることから、新興国での医療普及の初期段階において需要の増加が見込まれます。また、検査機器の高度化を通じ、検査の精緻化や効率化を図ることで、先進国でも新たな需要掘り起こしの余地があるため、発展性の高い事業領域であると言えます。
シスメックスは技術力に加え、販売・サービス体制の整備を通じて強みを構築してきました。他社に先駆けて導入したIT活用による検査業務の効率化や、遠隔監視によるサービス品質向上などを実現したことが評価され、後発企業でありながら主力のヘマトロジーで世界シェア50%を超す、トップ企業の地位を確立するに至りました。グローバルに直販体制を構築しており、海外売上高比率は9割近くを占めています。
2026年4月、カディラは機関投資家を含む資本市場関係者とともにシスメックスの東京オフィスを訪問し協働対話ミーティングを実施しました。シスメックスの飯塚健介CFOをメインスピーカーとして、同社を取り巻く課題を整理した上で、同社の成長戦略や今後の方針について意見交換を行いました。短期的に業績が苦戦している中で、シスメックスが自社の存在意義をどのように考えるのか、という点がミーティングの最も重要な論点でした。
足元、シスメックスが抱えている経営課題は構造変化が進む中国市場への対応です。中国では政府主導の医療費適正化政策を背景に、検査業界が「量から質」のパラダイムシフトの過程にあります。過去には収益機会であった過剰検査慣行の是正が進む中で、コスト競争力を前面に出した地場メーカーの台頭と相まって、シスメックスの中国事業は短期的な逆風に直面しています。その結果、2026年3月期において業績計画の下方修正が行われ、株価も大きく下落しました。
この点については、協働対話ミーティングの中で丁寧に説明がなされ、シスメックス側からは安易にコスト競争に追随するのではなく、技術支援や顧客教育などの質を重視するという姿勢を維持する方針が述べられました。実際に、中国で医療機器産業データ調査において最高評価を受けて表彰されているなど、シスメックスの経営姿勢は現地での高い評価につながっています。質重視の姿勢は短期的に業績の下押し要因になっている面もありますが、現地の医療業界において賛同を得られている点は中長期の観点では見逃せないポイントです。今後、中国市場では検査の効率化が進められる中で、大規模な検査センターへの集約化が進む可能性がありますが、その場合には医療関係者からの高い評価がプラスに作用すると考えられます。
協働対話ミーティングにおいては、中長期の観点として、シスメックスが認識する医療課題も主要な論点として意見交換が行われました。過去を遡ると、シスメックスは医療業界の変化によって生じる検体検査業務の課題を見つけ、改善することで成長を続けてきました。創業当初は、国民皆保険制度の普及とともに急増した検査需要に自動血球計測装置の開発で応えました。1980〜90年代にはHIV感染拡大を背景に、検査する人が検体に触れないことが求められたため、自動搬送システムを世界に先駆けて実用化。続く2000年代以降は遠隔モニタリングによって大規模検査センターの安定稼働を支援してきました。
今回のミーティングにおいては、シスメックスが重要視している5つの医療課題(検査従事者不足、治療満足度向上、医療格差、個別化医療、予防管理)と、それらをAI・デジタル戦略で解決していく方針が説明されました。
先進国では医師・看護師・検査技師を問わず医療従事者の不足が深刻化しており、本来の専門業務に専念すべき人材が単純作業に割かれるという非効率が拡大しています。シスメックスは精度管理の自動化や省人化を通じてこの構造的課題を緩和し、人員制約の下でも検査の質と量を維持できる体制の構築を進めています。
一方、新興国が直面する課題は性質が異なります。専門人材の絶対数が不足しているため、検査機器の普及だけでは医療水準の向上につながりません。そこでシスメックスは、検査機器の普及と検査技師の教育プログラムを組み合わせた基盤整備型の市場参入を継続しています。また、AI活用により専門人材が不足していても疾患の判定ができる技術の開発も進めており、人材育成と技術補完の両面からアプローチしています。
投資先の業績が低迷すると、資本市場の注目は短期的な数値に偏りがちです。業績成長が重要なことは言うまでもありませんが、短期業績を優先しすぎるあまりに、医療業界の課題に向き合う姿勢や、製品・サービスの質が後回しになってしまうことは避けたいものです。今回の協働対話ミーティングにおいては、中長期戦略を中心に話が展開されました。短期苦戦の時だからこそ、未来志向の姿勢で議論を展開することが長期目線の投資家エンゲージメントの役割だと考えています。
カディラは、今後も建設的な対話を継続しながら、シスメックスの社会的価値創造と長期的な企業価値向上を支援する投資家としての役割を果たしてまいります。
*1 2025年1月23日付けの記事から再掲 https://cadiracm.com/news/SZICo_p1
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